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リリスの娘  作者: 茶無
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4

 


 限界だ……。

 何故にボクが毎日毎日、毎日毎日おしりを鞭でしばかれなければならないのか。


「おかしいと思うでしょメサルティム!」

「……不必要な会話は禁じられています」


 いつも通りにボクの髪を櫛で梳かすメサルティムはいつも通りの素っ気ない態度。

 毎朝ボクのことを起こしに来てくれるのだけれど、ボクも慣れてしまってメサルティムの気配で眼が覚めるようになってしまった。

 毎日欠かさず髪の手入れをしてもらった後に用意されている朝食を食べるのが常だ。果物の匂いがするけど、まだ食べたことない匂いだな。


「朝食は何のフルーツなの?」

「ピインの実です。南国から届く高級品です」


 へぇ、ピインか。教科書の図鑑では知ってるけど食べるのは初めてだ。

 朝食は果物のパターンが多いけどエムモの実というのがボクは好きだな。ピインとやらも美味しいといいけど……、てそうじゃなくて。


「いつまでこんな生活が続くの?」

「……何かご不満が? 私が掃除しましたこのカビ臭い部屋では息が詰まりますか?」

「…………いえ滅相もない」


 なんてことだ。メサルティムめちゃくちゃ根に持ってる。

 現状の打破は最優先だけど、何とかこの羊娘との関係も改善したいところだ。

 何か会話の糸口は無いかと目を泳がせるボクに、メサルティムは溜め息をつきながら……、


「ご心配されずとも、シリウスの身体はもう出来上がりつつあります。近々教育も切り上げられることでしょう」

「…………出来上がりって何?」

「あ……」


 ……え、何どういうこと? 今「あ」って言った。

 ボクの身体はまたどうにかされてるの? 現在進行形で? 怖いんだけど。


「今のは失言でした 忘れて下さい!」

「そんな無茶な」

「シリウスの知能レベルを失念していました!」


 ……ひょっとしてバカにされてる?


「だって、シリウスは鼻が良すぎるんです。私が完璧に掃除してるのに臭いはずなんてない。きっと合成された魔獣の狼のせいで……」

「落ち着いてメサルティム。ボクの方がどんどん不安になる」

「あぅ……、ご、ごめんなさい!!」


 あわあわと次々に情報を吐き出してくれるメサルティムはこれ以上は本当にマズいのか、ボクのことを突き放すように部屋から走って出て行ってしまった。

 ボクは不安を掻き立てられて置いてけぼりにされた気分だけど……、


 鏡で見るボクの姿は犬耳少女だ。

 この姿になる前に見た気がするあの銀色の狼と合成されたということなら、まぁあり得ないこととは思うけど予想通りだ。ここは魔法使いのいる異世界だし。

 あれが『魔獣』だったとはね。教科書の知識しかないけれど。人間と魔獣を合成するなんてそんなことが可能なのだろうか?

 実際にボクはこんなだしハダル先生は馬っぽいしメサルティムもまるで羊さんだ。あの魔法使いはそんなことまでやってのけるというのか。出来上がりって何なんだ。



 などと頭を抱えていると蹄の音が聞こえてくる。ハダル先生の匂いだ。廊下の向こうからまっすぐこちらへやってくる。

 …………、

 …………だから何でわかるんだ?


 冷静に考えるとメサルティムの言う通りボクは鼻が利きすぎるのではなかろうか。まだ部屋に入る前からハダル先生の大体の位置までわかる。

 気づかないうちに何か取り返しの付かないことになってるんじゃ……。


「シリウス」

「ハダル先生!」


 部屋に入ってきたハダル先生に縋るように飛びついた。


「ハダル先生!助けてください!ボクの体が変なんです!」

「いきなり犬のように我を忘れて(じゃ)れ付くのはやめなさい鬱陶しい。メサルティムから聞いたのでしょう。来なさいシリウス」


 足にまとわりつくボクを文字通り首根っこ掴んで部屋の外へ連れ出す先生。猫の子のようで体格差が悲しい。

 ともあれ連れて行かれるのはいつもの勉強部屋である。

 朝ごはん、まだなんだけども。



 ○



「予定よりも早く授業を切り上げなければならなくなりました」

「……ボクの体と関係があります?」

「えぇそうね」


 勉強部屋で机に着く。

 机の上に、今日は教科書の類は無い。


「普通は半年くらいかかるものなのだけれど、あなたは特別早い方ね。想定はしていたので今日からは最低限のことだけを教えます」

「その、ボクの体って一体……」

「珍しいというだけで今まで無かったことではないわ。あなたの体はもうすぐ召喚術の恩恵を失って完全なリリスの娘になる」

「リリスの娘?」


 聞き覚えがある言葉。


「この二ヶ月、あなたは召喚術の作用で身体能力が向上し、格段に上がった脳機能で言語の習得も容易だったでしょう。しかし魔獣と合成されたあなたはもう人間ではない。間もなくその作用も無くなるの」

「ボクは……、どうなっちゃうんです?」

「今と変わりないわ。自分の体をどう思うの?」

「犬耳の女の子です」

「そうね。なかなか可愛く出来ているわ。元が良いのね……」


 そうだ。今この状態だって自分の体がどうなっているのかもわからない。

 犬耳少女にされてひたすら勉強させられるとか意味がわからない。


「ひと月後に御披露目を行います」

「あの、わからないことが多過ぎて……」

「これから全てゆっくり説明するから焦らないで。御披露目の前にあなたと同じ娘たちに面会しなければいけないわ。次のお茶会から参加してもらいます」


 ボクと同じ娘たち?

 そのリリスの娘というのが、他にも大勢いるのだろうか? それならその人たちにもっと色々と聞けるのだろうか? どうもハダル先生もメサルティムも意図的に情報を制限されている節がある。

 御披露目だのお茶会だの、メサルティムの言う通りこの生活からは進展がありそうだけど……。

 不安ばかりが溜まっていくな……。



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