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リリスの娘  作者: 茶無
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「…………」


 ポラリスの体を洗って温かいお湯で流し、メサルティムが用意してくれていたタオルで体を拭いているところで、ポラリスは目を覚ました。

 グラマラスな裸体を出来るだけ見ないように、タオルでおっかなびっくり拭いていると、急に体ごと引っ掴まれて抱き寄せられた。

 後ろ向きに抱きかかえられて身動きが取れなくなる。何をするんだと思ったけど、


「…………グス…」


 後ろ向きなので、ポラリスの表情は窺い知れない。

 首輪で無理矢理言いなりにされて、個室の中でどんな扱いを受けたのかボクには想像も付かない。首の傷は何度も首輪を使われた証拠だし、何度も死ぬ思いをさせられたと思う。怖かっただろう。ボクを抱く腕は今も震えていた。

 顔は見ないまま手を伸ばして、頭を撫でてやる。するとさらに強くボクを抱きしめるポラリス。

 しばらくはこのままでいようと思った。





 この『隷属の首輪』は、外すことが出来ない。

 魔法使いなら何とか出来るとボクは思っているけど、無理に外せば魂が抜ける。その瞬間に命が無くなる。

 命令に逆らったときの壮絶な痛みは、首輪が癒着したエーテル体とやらを直接傷つける痛みだ。

 その先にあるのは確実な死。

 そしてそれは、この城から逃げても同じことらしい。

 首輪の機能の一つってやつだ。城から離れ過ぎると容赦無く首輪が作動する。


 他にも、命令権を委譲する指輪。

 ポラリスが使われていたのを見た通りの機能らしいけど、命令権の他にも首輪と指輪との距離が離れすぎても首輪が作動してしまうらしい。つまりあの貴族があのまま指輪を持って帰っていれば、それこそポラリスは死んでいたのだ。指輪の持ち出しを許さなかったのはそんな理由があった。


 ここ『リリスの館』にはルールがある。

 それを守らなければ、命にまで及ぶ重いペナルティが科せられる。


「あの貴族の男、ルールを破って死んじゃったよ」

「…………そうか」

「ハダル先生が蹴り殺してた。……先生、凄く怖かった」

「………………」


 ポラリスを買った貴族の男は指輪の返却をゴネてハダル先生に蹴り殺された。貴族を殺してしまってタダで済む訳が無いと思うけど、ハダル先生はルールを守らない場合に限り不届き者狼藉者の処分を一任されているそうだ。メイド羊さんの一人が教えてくれた。

 どうやらボクらのご主人様は絶大な力を有しているようだ。


「…………ありがとな。シリウス」

「うん? ボクじゃなくてハダル先生が……」

「ちげぇよ。体洗ってくれただろ」

「ああ、うん」


 ご主人様の姿を、ボクはまだ見たことがない。

 ボクらをこんな姿にしたあの魔法使いがここの主人かと思っていたけど、そうではないらしい。

 貴族の中でもかなり上に位置する立場の者がここの主人だそうだ。この城も元々その人の持ち物だった廃城を改装した物だという。

 そんな輩に飼い殺しにされているボクらは、

 どうしようもなく無力だ。


「オレ、カッコわるいよな……」

「…………」

「可哀想だって、思ったか?」

「………………」

「オレはさ、ここに来る前はけっこう腕の立つ戦士だったんだ」

「……戦士?」

「そうさ。これでも村の中じゃ村長(むらおさ)の次に強かったんだぜ? どこの部族もオレの顔見りゃ逃げ出したもんさ。狩りに出てもオレがいつも一番乗りで獲物に傷をつけた」

「…………??」

「それが今じゃこんな熊みてぇな女にされてこの様だ。情けねぇよな」


 狩り? 部族??

 ポラリスの言い回しの意味がいまいちわからない。

 何の話をしてるんだろう? あ、そうか召喚されたと言っても日本人とは限らないのか。


「ポラリスはインディアンかなんかだったの?」

「なんだそりゃ? オレはヤライ族だよ。赤山の麓の森のヤライ族。お前は?」

「…………日本人、です」

「変な名前の部族だな?」

「いや部族っていうか……、ポラリスはどこの国にいたの?」

「国ってなんだ?」


 ……今時どこの少数民族でも携帯電話を使うらしいし遊牧民すら車で移動する。各国のTV屋から取材を受ける機会もあると思うけど、世俗を知らずに狩りをして暮らすような民族がまだ現存しているのだろうか? それも口振りからすると複数の部族が?


「ボクは21世紀の日本にいたんだけど、ポラリスはひょっとして違う時代から来てない?」

「お前も難しい言葉使うんだな。オレんとこはそういうの無いんだよ」

「………………」

「んだよ! バカにしてんのか?」


 確証が……、ポラリスの認識がフワフワすぎて確証が得られない。

 でも確かに魔法使いが日本人しか召喚しないとは限らないし21世紀の地球からしか召喚されない決まりなんて無いかも知れない。たとえ石器時代の原始人でも区別なく召喚してしまうものなのかも。いや時代どころか、全く違う世界から召喚されても不思議は無い。なにせここがもう異世界なのだ。

 どちらにしろポラリスの故郷がかなり原始的な世界なのは確実だな。


「ポラリスは物凄い昔から召喚されたのかもね」

「あー、なんかみんなそう言うな。昨日の昨日のずっと昨日とか。それもう去年じゃねぇかってな!」

「………………」


 もしそうならポラリスとボクとは価値観が全然違うのかもしれないな。戦士奴隷を目指すというのも、それだけ戦うことがポラリスにとってとても重要ということなのだろう。


 いや……、


 もしかしたら、リリスの娘みんなが、

 ボクともポラリスとも全く違う世界から召喚されて、違う価値観を持っているのかもしれないのか。




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