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09話 かけがえのないものはここに

 あれから、さらに時間が流れて……でも、答えは出せなくて……


 残された時間は一日になった。


 どんな悩みを抱えていようと、どんな問題を抱えていようと……世界は変わらず、いつも通り朝がやってくる。

 寝起きの頭はぼうっとしていて、思考がうまくまとまらない。


「っ」


 突然、視界が二重三重にぶれた。

 平衡感覚がなくなって、上下左右がわからなくなってしまう。


「くっ……ふう、はあ……」


 歯を食いしばり、耐えること数分……波が去るように体の不調は消えた。


「これが、棗先輩が言っていたことか……」


 幽霊と人間は共存できない。幽霊は人間の生気を吸い取ってしまう。


「少しずつ……でも、確実に影響は出ている、っていうことか」


 雫と出会って一ヶ月弱でコレだ。

 これからずっと雫と一緒に過ごしたらどうなってしまうのか?


 ……考えると、少しだけ怖くなってしまった。


「でも……」


 雫の記憶が消えるなんて、考えたくない。

 そんなことになるなら、いっそのこと、俺も幽霊になってしまった方が……


「兄さん?」


 ノック音の後、美月が部屋に入ってきた。


「そろそろ起きないと、遅刻して……」


 起き上がっている俺を見て美月が目を丸くした。


「どうした?」

「……今日は雨ですね」

「待て、それはどういう意味だ?」

「兄さんが早起きをするなんて……」

「俺だって早起きする時くらいある」

「そんなこと、一年に一回くらいしか……」


 そこで言葉を止めて、美月は怪訝そうな目をこちらに送ってきた。

 そっと歩み寄ってきて、俺の額に手を当てる。


「美月?」

「熱は……ないようですね」

「何をしているんだ?」

「顔色が悪いから、風邪を引いているのかと思って」


 今の俺、そんなに体調が悪そうに見えるのか……

 思っていたより、雫と一緒にいた影響は大きそうだ。


「寒気はしますか? 頭痛は? 吐き気は?」

「あー……ちょっと体がだるくて、目眩がするかな」

「風邪の前兆? それとも、疲労がたまっているんでしょうか? どちらにしろ、今日は休んた方がいいと思います」

「……そうだな。わかった、今日は休むことにするよ」

「はい。それじゃあ、看病は私に任せてください」

「看病、って……待った。美月まで休むつもりなのか?」

「そうですが、何か?」

「別に子供じゃないんだから、一人でも平気だ」

「そうかもしれませんが……」


 でも、と間に挟んで、美月は言葉を続けた。


「兄さんのことが心配なんです」

「……」

「大事な家族のために学校を休む。それは、いけないことですか?」

「……いや」

「なら、問題ないですね。では、学校に連絡をしてくるので、少し待っていてください」


 美月が部屋から出て行った。


「大事な家族、か……」


 宮藤美月……俺の妹……大事な家族……


 俺は、今後の選択次第で、そんな美月の前からいなくなってしまうかもしれない。

 それは、後に残される人のことを無視した、とても身勝手な考えじゃないだろうか……?




――――――――――




 夜になる頃には、俺の体調は完全に回復していた。


「もう大丈夫みたいですね」

「だから、さっきからそう言っているだろう?」

「でも、ここで無理をしたら、また悪化するかもしれません。今夜はおとなしく寝てください」

「はいはい、わかったよ」


 美月に言われるまま、ベッドに横になった。


「おやすみなさい。兄さん」

「……美月」

「はい?」

「もしも、俺が……いや。今週の日曜日、空いているか?」

「空いていますけど……それがどうかしましたか?」

「駅前のカフェのケーキセット」

「え?」

「約束していただろう? 日曜日、一緒に行こう」

「いいんですか?」

「ああ、もちろん」

「わかりました、楽しみにしていますね」


 笑みを浮かべて、美月は手を振った。


「では、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」


 美月が部屋を出て行った。


 それを確認した後、俺はベッドから降りて、服を着替えた。

 それから部屋を出て、美月にばれないようにそっと家を後にした。


 目指す場所は……七峰学園だ。

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