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08話 二者択一

 結論から言うと、雫の体を見つけることができた。


 名簿に記載されていた『宮ノ下雫』は雫のことだった。直接病院に行って確かめてきたから間違いない。

 これで、晴れて雫は生き返ることができる。めでたしめでたし。


 ……と、いう風になればよかったんだけど、ここで一つ問題が浮上した。


「どうやって生き返ればいいのかな?」


 雫の体を見つけたけど、肝心の生き返る方法がわからないという。

 そのことを聞いた俺は、コントよろしくこけたものだ。


「どうしたものかな……」

「うーん……」


 病院を後にして、俺の部屋に戻ってきた後、雫と一緒になって生き返る方法を考える。


 しかし、いくら考えても名案は思い浮かばない。

 当たり前だ。生き返る方法なんて普通は知らない、むしろ、知っている方がおかしい。


「やっぱり、ここはその道のプロに聞くべきじゃないかな?」

「プロ? プロって誰だ?」

「棗先輩」

「あー……あの人か」


 俺、あの人、ちょっと苦手なんだよな。

 無駄に威圧感があるというか、敵意を向けられているというか。


 おまけに幽霊で、ちょっと怖い。


「他にこういうことに詳しい人はいないのか?」

「いるかもしれないけど、棗先輩以外に心当たりはないから……ゼロから探すことになるよ?」


 心霊関係に詳しい人をゼロから探し出すことは、たぶん、不可能じゃない。


 ただ、俺たちには時間制限がある。

 残り一週間とちょっと。

 この短い時間で俺たちが求める情報を持っている人を探し出すことは、難しいだろう。


「仕方ない、あの先輩に頼るしかないか……」

「乗り気じゃない?」

「あの人、怖いからな」

「なら、とっておきの作戦があるよ」


 雫はにっこりと笑った。




――――――――――




「聞きたいことがある? いいわよ、どんなことでも教えてあげる」


 先日訪問した時とは打って変わって、先輩はにこにこと笑顔を浮かべていた。

 その片手には、俺たちが持ってきた酒が握られている。



『棗先輩はお酒が大好きだから、お酒を持っていけば機嫌がよくなるよ』



 そうやって雫に言われた通り、酒を持って来たんだけど……まさか、ここまで効果があるとは。

 案外、扱いやすい人なのかもしれない。


「えっと、実はですね……」


 俺は雫の体を見つけたこと、しかし、生き返る方法がわからないことを説明した。


「……というわけなんですけど、どうすればいいのかわかりませんか?」

「なんだ、そんなこと」


 拍子抜けしたというような感じで相槌を打ちながら、先輩はさっそく酒を飲んだ。


「んっ、んっ、んっ……ぷはーっ! うまいっ、この一杯のために生きているっていっても過言じゃないわね」

「棗先輩、死んでるじゃない」

「つまらないツッコミを入れるな!」

「ぶー」

「そんなこと言ってると、生き返る方法、教えないわよ」

「っていうことは、知っているんですか!?」

「ええ、もちろん」


 ニヤリと笑う先輩。


「本来なら、高い授業料を支払ってもらうところだけど……まあ、この酒に免じて、タダで教えてあげる」

「それで、方法は?」

「そんな難しいことじゃないわ。祈ればいいの」

「祈る?」

「元の体に戻りたい、生き返りたい……そうやって強く祈れば生き返ることができる」

「でも、私、何度も元の体に戻りたい、って思ったんだけど……」

「それは雫の祈りが足りないのよ。心の底から真剣に祈るの。ただ一心に願い、祈り、望む。そうでないと、元の体に戻ることはできない。どうせ雫のことだから、幽霊になっている状態を、これはこれで楽しい、なんて心のどこかで思っていたんじゃない?」

「あう……」


 図星らしく、雫が小さくうめいた。


「じゃあ、真剣に生き返りたいって祈れば、雫は生き返ることができる……?」

「そういうこと」

「なんだ、それなら……」

「ただ、記憶は消えるけどね」

「……え?」


 思わず間の抜けた声がこぼれた。

 今、なんて言った……?


「記憶が消える、って……どういうことなの?」

「そのままの意味よ。生き返ったら、幽霊だった頃の記憶は全て消える」


 末期の患者に告げる医師のように、先輩は残酷な現実を告げた。


「なんで、そんな……」

「理由を聞かれても私にはわからない。世界の理について質問されてもわからないのと一緒よ」

「それじゃあ……私の中の和人くんの記憶は、この想いは……全部、消えちゃう?」

「ええ」

「そんな……」


 せっかく、雫が生き返る方法がわかったのに……

 でも、その代わりに記憶がなくなってしまうなんて……


「そんなこと言われたら……私、生き返ることなんて、できないよ……和人くんのことを忘れちゃうなんて、イヤだよ……この温かい気持ちを忘れるなんて、絶対にイヤ……大事なものを捨ててまで生き返りたいなんて、思えない、祈ることができない……」

「雫……お前、まさか」


 先輩が雫を睨みつけた。


「そこの人間と付き合っているのか?」

「……うん」

「ちっ」


 今まで見た中で最大級に不機嫌な様子で先輩は舌打ちした。


「私の言葉を忘れたの? 人間と仲良くするなって言ったでしょう」

「でも……好きになったから」

「そうやって人間を好きになったせいで、雫は生き返ることができないのよ。想いが足かせになって、心の底から生き返りたいって祈ることができない。それなのに……」

「……」

「今、雫が何を考えているのか当ててあげましょうか?」

「え?」

「その男のことを忘れるくらいなら、生き返ることができなくてもいい、このまま幽霊でいい……そう思っているんだろう?」


 雫は何も言い返せなかった。

 ……つまり、そういうことなのだ。


「言っておくけど、それは間違いよ。人間と幽霊が好き合っても、いいことなんか一つもない。不幸になるだけ……だから、私は忠告したのよ」


 先輩自身、何か思うところがあるのかもしれない。

 過去に何かあったのかもしれない。

 そんなことを思わせるくらい、先輩の顔は複雑な感情で満ちていた。


「それに、人間と幽霊は共存できないわ」

「え?」

「幽霊は人間の生気を吸い取ってしまう。望む、望まないに関わらず。故に、幽霊の傍にいる人間は少しずつ衰弱していって……やがて、死ぬ。だから、人間と幽霊の共存はありえないの」

「うそ……」

「人間。あんたには、何か心当たりはない?」


 問われて……ふと、思い出した。

 最近、やけに体がだるいこと。突然襲われる目眩のこと。


 今になって考えてみると、先輩の言葉を裏付けるような出来事は多々あった。


「……それじゃあ、俺たちは、どうすれば?」

「雫が生き返る。普通に考えるなら、それが一番ベストな結果ね」

「でも、それは……」

「私が言えるのはここまで。どんな選択を選ぶのか……後は、あんたたち次第よ」


 これで話は終わりというように、先輩は姿を消した。

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