06話 繋がる心と心
学園から歩いて十分、駅前広場にやってきた。
俺たちと同じように遊びに来た学生で賑わっている。
「さて、どこに行こうか……何か希望はあるか?」
「えっと……あっ、あれがいい!」
雫が指差した方を見ると、クレープ屋台があった。
人気店らしく列ができている。
「おいしそう、食べてみたい!」
「幽霊なのに食べられるのか?」
「うん、大丈夫」
「大丈夫なのか……」
どういう構造になっているんだろう?
疑問に思いながら、とりあえずクレープを二人分買った。
「ねえねえ、早く食べよう」
「待った。その前に、場所を変えよう」
雫は他の人から見えない。
そんな雫がクレープを食べようとしたら、他の人からはクレープが宙に浮いているように見えるんじゃないか?
俺には雫が見えるから、実際のところ、どうなるのかわからないけど……
とりあえず、面倒になりそうな事は避けておいた方がいい。
「確か、近くに公園があったよな……そこに移動しよう」
「はーい」
人の多い駅前を離れて、小さな公園に移動した。
ちょうどいいタイミングだったらしく、他に人はいない。
「ほら」
「ありがとう」
クレープを渡すと、雫は笑顔で受け取った。
子供のように大きな口を開けてクレープにかぶりつく。
「はむっ、あむっ……うまい! もう一杯!」
「そのネタ知ってるヤツ、どれくらいいるんだろうな……?」
「和人くんも食べてみなよ、すごくおいしいよ」
「ああ」
ぱくりと、クレープを一口。
ほどよいクリームの甘みと、いちごのちょうどいい酸味が口の中に広がる。
「うん、うまい」
「でしょう?」
「生クリームといちごの相性が……これはいいな、やみつきになりそうだ」
「ねえねえ、一口交換しよう?」
「え?」
今、なんて?
そう言うより先に、雫は俺のクレープをぱくついた。
「あむっ……んー、これもおいしいね!」
「あ、ああ」
「それじゃあ……はい、今度は、私のをどうぞ」
「いや、それは……」
なんていうか、抵抗があるというか、恥ずかしいというか……
そうやって食べ比べをすると、まるで……恋人みたいじゃないか。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、雫は強引に俺の口にクレープを突っ込んだ。
「むぐっ!?」
「どう? おいしい?」
「まあ……それなりに」
正直なところ、味なんてよくわからなかった。
雫を妙に意識してしまったせいで、なんとなく顔を見ることができない。
胸の内のモヤモヤをごまかすように、クレープを食べることに専念する。
「それにしても……」
「……なんだよ?」
「こうやって食べ比べをしていると、私たち、恋人みたいだね」
「ごふっ!?」
おもいきりむせて、危うくクレープを落としてしまいそうになった。
「い、いきなり変なことを言うな!」
「変なことかな?」
「当たり前だろう。俺たちが……恋人みたい、なんて」
「でも、デートをして食べ比べをして……これって、恋人のやることじゃない?」
「それは、まあ……」
「それとも……和人くんは、私と恋人みたいに思われるのはイヤ?」
すぐに答えることができなかった。
だって、そんなこと考えたこともなかったから。
「私は……うれしいよ」
「え?」
「和人くんと恋人みたいに見られたら、うれしい」
「それは……どういう意味なんだ?」
「和人くんのことが好き、っていう意味だよ」
見れば、雫の顔は赤くなっていた。
瞳を潤ませながら、じっとこちらを見つめている。
そこには、雫の真摯な想いが感じられた。
「和人くんは……どうかな?」
「どう、っていうと……?」
「私と恋人に見られるのは、うれしい? それとも……」
突然、突きつけられた選択……なんて答えればいいんだろう?
俺もうれしい? 好きだ? 一緒にいたい?
……そこまで考えて、ふと気がついた。
俺、雫の告白を断るような返事を考えていないじゃないか。
「……ああ、なんだ。そういうことか」
「和人くん?」
「雫、この前、ちょっとの間なら実体化できる、って言っていたよな?」
「え? あ、うん。そうだけど……」
「なら、今、実体化してくれないか?」
「それは、別にいいけど……」
怪訝そうにしながら、雫は頷いた。
そして、祈るように目を閉じた。
少しして、半透明だった雫の体に色がついた。
「えっと、終わったよ」
「そっか」
俺は、そっと雫を抱き寄せて……
そのまま、そっと唇を重ねた。
「っ!?」
びくんっと震える雫。
でも、俺を振り解こうとはしない。
「これが、俺の答え」
「……」
「雫?」
「……不意打ちだ、ずるい」
「えっと……ダメだった?」
「……もう一回」
「え?」
「びっくりして、よくわからなかったから……もう一回して」
そっと目を閉じる雫。
そんな彼女の頬に手を添えながら、もう一度唇を重ねた。




