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05話 たまには寄り道を

「兄さん、朝ですよ」

「う……ん……?」


 見慣れた自分の部屋。


 目を開けるとまぶしい光が飛び込んできた。

 反射的に手の平を前にやって光を遮る。


「ほら、起きてください」

「……あと五時間」

「本眠じゃないですか、それ」


 がばっと布団を剥ぎ取られた。


「起きてくれないなら、今度は枕を取りますよ」

「わかった、わかったから……」


 あくびをしながら体を起こした。

 それからベッドから降りようとして……


「っ!?」


 一瞬、視界が明滅して目眩がした。


「兄さん?」

「あー……いや、なんでもない」


 目眩はもうしない。


 うーん……なんだったんだろう、今のは?

 今まで、こんなことはなかったんだけど……風邪かな?


「大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫」

「でも……」

「ここ最近色々あって、ちょっと体がだるいだけだから問題ないって」


 雫と出会って一週間が経った。

 あれから毎日調べ物をしているから、その疲労が蓄積しているのかもしれない。


「それじゃあ、俺は着替えるから」

「はい、わかりました」


 美月が部屋を出て行こうとして……

 ふと、思い出したように足を止めた。


「あ、兄さん。宮ノ下雫さんのことですけど」

「何かわかったのか?」

「いえ、それが……」


 申し訳なさそうな顔をして、美月はぺこりと頭を下げた。


「すいません、何もわかりませんでした」

「そうか……」

「色々な人に話を聞いたのですが、誰も知らなくて……」


 美月なら……と思ったけど、世の中、そんな簡単にはいかないか。


「……わかった。わざわざ調べてくれてありがとう」

「ごめんなさい、期待に応えられなくて」

「気にしなくていいよ。それより、約束のケーキセットだけど、もうちょっと後でもいいか? 今は色々と立て込んでいて」

「え、でも……私は宮ノ下雫さんを見つけることができませんでしたよ?」

「結果はどうあれ、この一週間、美月は色々と働いてくれたんだから、報酬を支払うのは当然だろう?。それとも、ケーキセットはほしくないのか?」

「ほしいです!」


 即答する美月。

 女の子だけあって、甘いものには目がないらしい。


「それじゃあ、ケーキセットはもうちょっと後ということで」

「はい、楽しみにしています」

「ああ、約束だ」




――――――――――




 あれから、さらに一週間が過ぎた。


 その日も、いつものように資料室で調べ物に専念していたけど……


「……これでラスト、か」


 卒業生名簿の最後の一冊を見終えた……が、宮ノ下雫の名前は見つからなかった。


 どこかで見落としてしまったのか。あるいは、雫は卒業生ではないのか。

 どちらにしろ、手がかりはなくなり、振り出しに戻ってしまった。


「どうしたものかな……」

「和人くん」

「他の方法は……いや、でも……時間が……これ以上は……」

「和人くんってば!」

「うわっ!?」


 気がついたら雫の顔が目の前にあった。


「な、なんだよ? いきなり大きな声を出して」

「だって、和人くん、私の話を聞いてくれないんだもん」

「あ、いや……悪かった。ちょっと考え事をしていたから。それで、どうしたんだ? 何か思いついたのか?」

「ううん、何も」


 ちょっと期待してがっかりした。


「それじゃあ、なんなんだ?」

「遊びに行こうよ」

「はい?」

「行き詰まっている時は、気分転換をして、一度気持ちを切り替えないと」

「本当は、雫が遊びに行きたいだけじゃないのか?」

「……そんなことないよ?」

「今の間はなんだったんだ、おい」

「てへぺろ」

「ったく……しかし、気分転換か」


 残された時間は二週間だ、そんなことをしているヒマはない。


 ……とは思うものの、行き詰まっている時は、何をやってもうまくいかないのは確か。

 雫の言うことにも一理ある、か。


「……そうだな、気晴らしに遊びに行くか」

「うんうん、そうした方がいいよ、ぜひぜひ!」

「そんなに遊びたかったのか、雫は」


 広げた資料を片付けながら雫に問いかける。


「雫はどこか行きたいところはあるか?」

「うーん……ユニバーサルなスタジオなジャパン!」

「いや、無理があるだろう、それ」

「気合と根性で」

「世の中、気合と根性じゃあどうにもならないことがあるんだ」

「世知辛い世の中だね……」

「まったくだ」

「まあ、今のは言ってみただけだから気にしないで」

「とりあえず、私は和人くんと一緒ならどこでも楽しいよ」

「そ、そっか」


 にっこりと笑顔で言うものだから、ちょっと照れた。


「じゃあ……とりあえず、駅前辺りに行って、それから後はその場の流れに任せる、っていう形でいいか?」

「うん、いいよ」

「それじゃあ、行こうか」

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