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04話 幽霊にも上下関係はありますよ

 町外れにある廃病院は、地元でも有名な心霊スポットだ。

 何度かテレビで取り上げられたこともある。

 普段なら、絶対に関わることがない場所なんだけど……


「本当に、こんなところに先輩がいるのか?」

「うん、そうだよ」

「なんでこんなところを根城にしているんだよ、その先輩は」

「そりゃまあ、幽霊だからねえ」

「早く用事を済ませて帰りたい、帰りたい、帰りたい……」

「今の和人くん、なんか、すごくかっこわるいよ」

「うるさい、ほっとけ」


 怖いものは怖いのだから仕方ない。


「あ、そろそろ着くよ」


 そう言って、雫は奥の部屋に入っていった。


「こんにちは、棗先輩」

「あら、雫じゃない」


 雫に続いて部屋の中に入ると、女の人がいた。

 見た目から推測すると、二十半ばといったところだろうか?


 雫と同じようにふわふわと浮いているところを見ると、この人が例の先輩なんだろう。

 俺と出会う間に、雫はこの人に幽霊としての心構えなどを教えてもらったらしい。

 だから『先輩』と呼んでいるみたいだ。


「久しぶりね、ゆっくりしていって……と、言いたいところだけど」


 先輩の視線が俺に向いて、おもいきり睨みつけられた。


「なんで、ここに人間を連れてきたのかしら?」

「あ、この人は和人くん。私の友達だよ」

「えっと……どうも、はじめまして」

「なんで、ここに人間を連れてきたのかしら?」


 おもいっきり無視された……

 幽霊が相手とはいえ、ちょっと傷ついたぞ。


「私が人間嫌いだって知っているでしょう?」

「あれ? そうだっけ?」

「そうなの。あれだけ嫌い嫌いって言ってたのに、なんで忘れるのかしら、この子は」

「棗先輩の話は忘れていないよ」

「だったら、どうして人間を連れてきたのよ?」

「いや、あれだけ嫌い嫌いって言うから、逆に好きっていうフリなのかなあ、って」

「そんな芸人みたいなフリはしないわよ!」


 とことんマイペースな雫に先輩はおもいきり振り回されていた。

 なんだか、ちょっとかわいい。


「はあ……まあいいわ。それで、何の用?」

「えっと、和人くんが聞きたいことがある、って」

「人間が?」


 再び睨みつけられた。

 でも、あんなやりとりがあった後だから、そんなに怖くない。


「えっと……初めまして、宮藤和人です。今は色々あって、雫の体を見つけるために協力をしています」

「ふーん……雫に協力、ねえ」

「それで、今回は雫に関することで、ちょっと色々と聞きたいことがあって……」

「悪いけど、帰ってくれる? 人間と話すことなんか一つもないの」

「先輩、そんな冷たいこと言わないで、和人くんの話を……」

「雫は黙って」

「棗先輩、怖い……そんなんじゃあ、この先、ずっと独り身だよ?」

「だ・ま・り・な・さ・い」

「あう……」


 先輩の冷たい視線に気圧されるように、雫は俯いてしまった。


「そういうわけだから、帰ってちょうだい」

「……帰りません」

「聞こえなかった? 帰りなさい、って言ったのよ?」

「話を聞くまでは帰ることはできません」


 先輩は敵意を露わにして、刺すように鋭い視線を飛ばしてきた。


 はっきり言って怖い、猛禽類と対峙したみたいに怖い。

 でも、ここで引くわけにはいかない。


「今日は、雫のことについて聞きたいことがあって、ここに来ました。俺は、雫の力になると約束した。だから、ここで退いたりしない。あなたと話をするまで帰ったりしない」

「……」


 視線と視線がぶつかった。


 俺は目を逸らさない。

 先輩も目を逸らさない。


「……ったく」


 ほどなくして、先輩はため息をこぼした。


「だから、人間は面倒で嫌いなのよ」

「棗先輩?」

「それで……何が聞きたいの?」

「っ……ありがとうございます!」

「勘違いしないでちょうだい。話をしない限り帰らないっていうなら、さっさと話を終わらせた方がいいと思っただけよ」

「棗先輩、ツンデレ?」

「違うわよ!」


 先輩は否定するけど、雫の言う通りだと思った。

 べ、別にあんたのためじゃないんだからね! ……なんていうセリフが似合いそうだ。


 やばい、そう考えると、この先輩、すごくかわいい。


「あんた、何か変なこと考えてない?」

「いえ、別に」

「本当かしら……まあいいわ。それで、聞きたいことっていうのは?」


 せっかく交渉が成功したのだから、気が変わらない内に聞きたいことを聞いてしまおう。

 俺は気持ちを切り替えて、雫のことについて尋ねた。


 長い間、魂が体から離れて問題はないのか? 生き返る際に不都合は生じないのか?

 そういった要点をまとめて、話をした。


「……というわけなんですけど、その辺りはどうなんでしょう?」

「ふむ」


 先輩はあごに手をやり、考えるようなポーズをとった。

 その姿は様になっていて、よく似合っている。


「……雫、あんた、幽霊になってどれくらいだっけ?」

「もうちょっとで三年になるかな?」

「なら大丈夫。三年経っていないなら、肉体から魂が離れても問題ないわ」


 よかった……と安堵しかけたところで、違和感に気づいた。


「あの……三年経っていないなら平気っていうことは、逆に言うと……

「ええ。三年過ぎたらアウトよ」


 医師が余命を宣告するように言い放った。


「三年経ったら、魂と体の調和がうまくいかなくなって、生き返ることはできなくなってしまうわ。もうちょっとで三年って言ったけど、正確に言うとどれくらい?」

「えっと……あと一ヶ月、かな」

「一ヶ月……」


 あと一ヶ月以内に体を見つけないと、雫は……


 事態は思っていた以上に深刻だった。

 たった一ヶ月。

 その短い期限で、雫の体を見つけることができるんだろうか?


「なんだ、それなら大丈夫だね」


 俺の不安を吹き飛ばすように、雫の明るい声が響いた。


「一ヶ月もあれば余裕余裕」

「お前、現状がわかっているのか? 今のところ、何も手がかりは掴めていないんだぞ?」

「そうだけど……でも、私は和人くんを信じているから」


 どこまでもまっすぐな雫の視線が俺に向けられた。


 まったく……出会って間もない俺を信じるなんて、雫はなんてお人好しなんだろう。

 きっと、オレオレ詐欺に簡単に引っかかってしまうだろう。


 でも……そんな雫は嫌いじゃない。


「わかった。雫の体は、一ヶ月以内に必ず見つけてみせる。約束だ」

「うん!」


 とびっきりの雫の笑顔。

 その笑顔を見て、なぜか胸が熱くなった。


「話は終わり?」

「あ、はい」

「それじゃあ、さっさと帰ってくれる?」


 不機嫌そうに、ぶすっとしている先輩。

 これ以上関わらない方がよさそうだ。


「えっと……それじゃあ、今日はありがとうございました」

「棗先輩、またね」

「……待って」


 部屋を出ていこうとして、呼び止められた。

 今日一番の深刻な顔をして、先輩は静かに告げる。


「雫。一つ忠告するけど、あまり人間と仲良くしない方がいい」

「え? それって、どういう意味?」

「忠告はしたから」


 そう言い残して、先輩は暗闇に溶けて消えた。

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