03話 探しても見つからないからなくしものという
放課後。
授業を終えた俺は、今は使われていない教室で昼寝をしていた雫と合流して(雫は学園を家の代わりにしているらしい)、資料室に移動した。
よくよく見てみたら、雫は七峰学園の旧制服を着ていた。
学園の制服は、約三年前にモデルチェンジされている。
それらのことから、雫はこの学園の卒業生……という推理を立てた。
なので、卒業生の名簿を調べることにしたんだけど……
「思っていたよりキツイ作業になりそうだな、これ」
過去数十年分の卒業生の名簿は膨大なものだ。
机に積み上げた資料は、文字通り山。
全て目を通すことを考えたら頭が痛くなってきた。
「仕方ない……地道な作業になるけど、一つ一つ目を通していくしかないか」
「私も手伝うから、一緒にがんばろう」
「手伝う? どうやって?」
「こうやって」
雫の前に置いてあった資料がふわりと浮いて、ぱらぱらとページが勝手にめくれた。
「少しの間なら、こうやって物を動かしたり、触れたりすることができるんだ。あと、実体化すれば私に触ることもできるよ。まあ、けっこう疲れるから、普段はこういうことはしないんだけど」
「な、なるほど……」
目の前で気軽に怪奇現象を起こさないでほしい。怖いから。
「どうしたの、変な顔をして?」
「……いや、なんでもない」
「それじゃあ、はじめようか」
「了解!」
二人で手分けして資料に目を通しはじめた。
見落としがないように、一冊一冊丁寧に目を通していった。
そうやって、資料と格闘すること一時間……
「……見つからないね」
「……見つからないな」
ある程度の量をチェックしたけど、雫の名前は見つからない。
まだ全体の一割も調べていないから、当然と言えば当然の結果なのかもしれないけど……
一時間くらいかけて調査した範囲は、全体の一割以下。
全ての名簿をチェックするのに、いったいどれくらいの時間がかかるんだろう?
そのことを考えるとげんなりした。
「兄さん?」
扉が開いて美月がやってきた。
「こんなところで何をしているんですか?」
「ああ、いや……ちょっと調べ物を。美月は?」
「私は先生に頼まれて資料の返却を」
美月は手に持っていた資料を棚に戻した。
「……ねえねえ」
「うん? どうした?」
「あの子、誰? 和人くんの彼女?」
「妹だよ」
「そっかー。納得いったよ、和人くんにあんな綺麗な彼女できるわけないからね」
「おいこらどういう意味だ」
抗議の声を無視して、雫は名案とばかりに提案してくる。
「美月ちゃんにも手伝ってもらうことはできないかな?」
「いや、それは無理だろう」
「どうして?」
「雫のことが見えない美月に事情を説明しても、信じてもらえるとは……」
……いや、そうでもないか。
要するに、雫の体が見つかればいいわけだから、わざわざ幽霊がどうとか詳しい説明をする必要はない。
適当な理由をつけて雫のことを探していると説明すれば、手伝ってもらうことはできると思う。
「美月ちゃん、しっかりしていそうだから、きっと心強い味方になってくれると思うんだけど」
「そうだな……ダメで元々、話すだけ話してみるか」
「兄さん? さっきからぼそぼそと独り言を口にして、どうしたんですか?」
気がついたら、美月が怪訝そうな視線をこちらに送っていた。
「ああ、いや、なんでもない」
「そうですか? てっきり、兄さんがおかしくなったのかと……ああ、それはいつものことでしたね」
妹の毒舌に、お兄ちゃん、ちょっと泣いてしまいそうです。
「それより、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「頼みたいこと、ですか?」
「今、ちょっとした理由があって、宮ノ下雫っていう女の子を探しているんだ。ウチの学園の卒業生だと思うんだけど、詳しいことがわからなくて……美月は顔が広いし、調べ物は得意だろう? だから、手伝ってもらえると助かる」
「……ナンパですか?」
「違う、どうしてそういう結論になるんだ?」
「兄さんですから」
俺は、妹からどういう目で見られているんだ……?
「とにかく、そういう邪な理由じゃないから」
「なら、兄さんとその人は、どういう関係なんですか?」
「あー……その辺りの事情は聞かないでくれると助かる。ただ、決してやましいことをしているわけじゃない」
「……わかりました、兄さんを信じます」
「サンキュー」
「それで、手伝ってほしいっていう話だけど……」
「そうですね……」
考えるように視線をわずかに落として……それから、美月はにやりと笑みを浮かべた。
「駅前のカフェのケーキセット。それで手を打ちましょう」
「……わかった。それでいいよ」
懐具合が厳しいけど、この際仕方ない。
「それで、私はどうしましょう?」
「俺は、卒業生の名簿を調べているんだけど……」
「わかりました。なら、私は別の方法で……OGなどの知り合いに話を聞いて、宮ノ下雫さんについて探ってみましょう。ただ、すぐに結果が出るわけじゃありませんよ? 早くても一週間はかかると思います」
「ああ、それは別に……」
構わない、と言いかけたところで、ふと気がついた。
時間がかかっても、雫は問題ないんだろうか?
例えば、一定以上の時間が経つと、生き返ることができなくなるとか……
「兄さん?」
「あ、と……わかった、一週間だな?」
「はい、構いませんか?」
「ああ、頼む」
「わかりました」
美月はしっかりと頷いて、それから席を立った。
「私はもう帰りますけど、兄さんは?」
「俺はもう少しここにいるよ」
「わかりました。では、お先に」
ぺこりと一礼して、美月は資料室を出て行った。
「……なあ、雫」
「なに?」
「ふと疑問に思ったんだけど、今のお前は魂が体から出ている状態なんだよな?」
「うん。大体、そんな認識で間違いないと思うよ」
「それって大丈夫なのか? 長い間、放置していても問題ないのか?」
「えっと……わかんない」
あっけらかんと、雫は言った。
「わかんない、って……お前、自分のことだろう?」
「そう言われても、わからないものはわからないし……」
「下手したら、体を見つけても生き返れないかもしれないんだぞ?」
「えー、それは困るよ」
「いまいち緊迫感が感じられないな……」
「うーん……それじゃあ、先輩に聞いてみよう」
「先輩?」
「うん、先輩」




