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最終話 それは恋という名の魔法

 コンコン。



「……はい、どうぞ」


 扉をノックすると、少しして女の子の声が聞こえてきた。

 扉を開けて病室の中に入る。


「いらっしゃいませー……って、誰かな?」


 ベッドに寝ている女の子は不思議そうな顔をして小首を傾げた。

 その表情、その仕草は雫のもので……でも、俺が知っている雫とは微妙に違うもので……


 少しだけ、涙が出そうになってしまった。


「?」

「え、と……」


 まずい、怪訝そうな目で見られている。

 俺は昂ぶる感情を押さえて、努めて冷静に話しかける。


「お見舞いに来たんだ」

「お見舞い?」

「俺は、えっと……君の友人の知り合いで……それで、君が目を覚ましたって聞いたから……」

「そうなんだ、ありがとう」


 とっさに口から出たウソだけど、雫は信じたみたいだ。


 あいかわらず、お人好しというか脳天気というか。

 そのおかげで助かったわけではあるけど、いつか悪い人に騙されやしないかと、少し心配になってしまう。


「これ、どうぞ」


 途中で買ってきたフルーツの詰め合わせをベッド脇のテーブルに置いた。


「わあ……りんごにバナナにメロンに……」


 きゅるるる、という情けない音が響いた。


「……腹、減ってるのか?」

「だって、病院食って少ないんだもん」

「はは……なら、りんごでも食べるか? 剥いてやるよ」

「いいの? ありがとう!」

「ちょっと待っててくれ」


 こんなこともあろうかと、一緒に持ってきておいた果物ナイフでりんごの皮を剥く。


「あ、どうせなら、うさぎさんの形にしてほしいな」

「注文が細かいな……」


 リクエストに答えて、うさぎの形にりんごを剥く。

 ただ、慣れていないので時間がかかってしまう。


「ところで……ずっと寝込んでいたらしいけど、体は大丈夫なのか?」

「うん。色々と検査をしたけど、大して問題ないって。でも、ずっと寝ていたから、リハビリしないといけないんだよね……それが面倒で」

「そっか……がんばれよ」

「うん、いっぱいがんばって、早く退院しないとね」

「そうだな……っと。ほら、できたぞ」


 うさぎの形に切ったりんごを渡した。


「ありがとう」


 笑顔でりんごを食べる雫。


「うん、おいしい!」

「病人だっていうのに、よく食べるなあ」

「いっぱい食べていっぱい体力をつけないとね。あむっ」


 元気な雫が見れてよかった。

 俺はそっと立ち上がった。


「あれ? どうしたの?」

「あまり長居してもあれだし、そろそろ帰ろうと思って」

「えー、もう少しお話しようよ。一人だとヒマでヒマで死にそうなんだよ」

「俺も、話をしたいところだけど……」


 ちらりと時計を見る。


「そろそろ面会時間が終了するから」

「そんなの気にしない気にしない」

「いや、気にしないとダメだろう」

「こっそり隠れていればバレないよ」

「難しい気がするが……」

「もっともっとおしゃべりしよう、徹夜する勢いで」


 本当に、雫は病人なのだろうか?

 俺よりも元気な気がする。


「徹夜なんて無理だ、勘弁してくれ」

「えー、なんでなんで?」

「常識的に考えて、無理だろう。それに……」

「それに?」

「……夜の病院に泊まるなんて、怖いじゃないか」

「あいかわらず、怖がりなんだね」

「え?」


 今、なんて言った……?

 『あいかわらず』……?


 そんな……以前のことを覚えているようなセリフを、なんで……


「雫、お前……」


 幽霊だった頃の記憶は消えた。

 でも……全ての想いが消えたわけじゃない?


「あれ? 今、なんで私……」

「……雫っ」


 気がついたら、俺は雫を抱きしめていた。

 何よりも大事な女の子の温もりを、この手で感じ取っていた。


「あ……」

「……少しでいいから、このままで」

「……うん、いいよ」


 そっと、雫の手が俺の背中に回された。


「……」

「……」


 雫が生き返って、記憶が消えて……

 俺と雫の絆は消えてしまったと思っていた。


 でも、完全に消えたわけじゃない。


 全てを取り戻すことは難しいだろうけど……もう一度、やり直すことはできる。


「……そういえば、まだ名前を聞いてなかったね」

「俺は……」


 ここからやり直していこう。

 また歩いて行こう。


 ……雫と一緒に。


「和人……宮藤和人だ」

「私は宮ノ下雫、よろしくね」

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