01話 プロローグ
夜の校舎は静寂に包まれていた。
窓から差し込む月明かりが、ぼんやりと足元を照らしている。
足音がやけに大きく響いた。
「はあ……俺、なんでこんなところにいるんだろう……?」
不気味だ。気味が悪い。はっきり言って、今すぐ引き返して家に帰りたい。
しかし、それができない事情がある。
「さっさと用事を済ませよう」
じわじわと這い寄ってくる不安と恐怖を我慢しながら、俺は目的地に急いだ。
――――――――――
目的地……教室に着いた。
今回の目的は、机に置き忘れたノートを回収すること。
ちなみに、俺のものじゃない。妹のものだ。
夜遅くに妹を外出させるわけにはいかないと、代わりに忘れ物を取りに来たんだけど……
夜の校舎がこんなに不気味だったなんて。
こんなことなら、やめておけばよかった。
「えっと、机の奥にあるって言ってたよな」
机の中に手を入れる。
「真夜中の教室で女の子の机をあさっている……傍から見たら危ないヤツだな、俺。こんなところを警備員に見つかったら言い訳できないし……っと、あったあった」
机の奥からノートを取り出した。
ミッション完了。
これ以上、こんな不気味なところにいたくない。早く帰ることにしよう。
教室の出口に足を向けて……
「ねえ」
今、声が聞こえたような……?
……いや、そんなはずはない。
教室には誰もいないはずだ、入る時に確認した。
だから、今のは気のせいだ。空耳、あるいは幻聴に違いない。
「ちょっと、無視しないでよ」
後ろの方から再び声が聞こえてきた。
振り返りたくない……でも、気になる。
「少しなら……」
好奇心に負けて、恐る恐る振り返る。
「……」
見知らぬ女の子がいた。
窓から差し込む月明かりに照らされて、サラサラと揺れる長い髪が輝いている。
女の子は芸術品みたいに綺麗で……
思わず見惚れてしまい、声が出なかった。
「おーい」
「……はっ」
「どうしたの? ぼうっとして」
「あ、いや……なんでもない」
見惚れていた、なんて恥ずかしいことは言えないから、適当に言葉を濁した。
「まあ、いいや。ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「お願い?」
「うん、お願い」
「いきなりそんなこと言われても……っていうか、君はいったい?」
人のことは言えないけど、こんな夜遅くに教室にいるなんて怪しい。
ウチの学園の制服らしきものを着ているけど、見たことない顔だ。
「私は……」
「……ちょっと待った」
ふと、あることに気がついて女の子の言葉を遮った。
「一つ、質問いいかな?」
「どうぞどうぞ」
「……浮いているように見えるのは気のせい?」
「ううん、気のせいじゃないよ」
「……体が透けているように見えるのは気のせい?」
「ううん、気のせいじゃないよ」
「……君、もしかして、幽霊?」
「正解」
そこは否定してほしかった。
「質問は終わり? それじゃあ、お願いを……」
「えっと……」
そっと後ろに下がった。
そして、くるりと背を向ける。
「それじゃあ!」
全力で駆け出した。




