黒騎士① 最強の殺戮者
「待ってよ……」
私は黒騎士が気になった。
気がつけば無意識に彼を追いかけていた。
恐怖からか、不思議と動悸がする。
追いかけても、誰の姿もない。
「……帰ろ」
家に帰っている途中、黒騎士の姿が見えた。
「待って!」
「…なんだ」
「なんか気になったってうか……あなたとこから来たの?」
「…俺は暗金黒津帝国の筆頭騎士・羅霜〈らそう〉だ」
ラソウが鞘から大剣を抜く。
抜き身の黒の頭身が、黄に光る。
「……私は透菜、ただの女子高生……ってわからないよね。
異世界に学舎とか寺子屋とか学習院とかないの?」
「学舎……?」
「勉学を教えるところとか……」
「それならある」
「あるんだ」
「俺の世界では男師は戦兵、女師が読み書きをそれぞれ幼い頃合いから学ばせてくれる」
「へー役割分担ってやつか……」
さっきから周りが見ている。
「……あなた、その格好目立つから着替えたほうがいいんじゃない?」
「そうだな」
「家は…あるわけないよね……」
しかたない。家に連れていこう。
「あらあらコスプレの彼氏?」
「うん、異世界から来た設定らしいよ。それと彼氏じゃないから」
「設定とは失礼な」
男友達のいない私に春が来たと母はウキウキしている。
「泊まるのね」
「なんか記憶喪失で自分がどこに帰ればいいかわからないんだってさ」
異世界人だが名前も古い時代の日本っぽいし取り合えず言語通じてよかった。
「そうだ。ご飯の前にお風呂行きなよ」
「女人が先に入られんのか」
体の汚れを気にしているのかな、白騎士よりは汚れていないし湯船につかる前に洗えばいいだけだ。
「普通は男が一番風呂に行くでしょ?」
それにテレビで一番風呂だと皮膚に悪影響があるって言ってたし。
「家はいつも母、姉、父の後だったな。いや大半の家がそうだ」
「へーそうなの」
なんか悪の皇帝に使えていそうな黒騎士がご家庭の風呂事情を話していると所帯染みてて微妙だ。
とりあえず彼のアンコクなんとかという国は結構女性に優しいみたいだ。
「では」
――悪魔みたいな男だと思ったのに、一応は人間みたいなところはあるんだなあ。
「ちゃんと頭洗う液剤がシャンプー、体洗う液剤がボディーソープだってわかる?」
そもそも戦国時代みたいな異世界の人がシャンプーを使うのかな。
「馬鹿にするな。戦場にいない間はちゃんと毎日トリートメントを毛の内側に浸透させコンディショナーで外側を滑らかにしていた」
黒騎士が的確にヘアケアの話をしている。
「そうなんだ。ていうかリンスってなんなんだろうね」
「……こんどこそ行くからな」
「あ、ごめん」