#05
(リナ視点)
私はずっとルナのそばで、ルナを見つめいてた。顔色が昨日よりも良くなった気がする。顔の赤みが引いていた。おでこの熱も下がった気がする。
視線をずらす。
隣では知らない男が寝ていた。
ルナを看病してくれたようではある。けれど知らない男だ。
私は優しい男を知らない。優しそうに近づいてきても、私たちを騙し、地獄に突き落とすだけだ。信用はできない。
ここを出ることも考えたが、鉄のドアはカギが掛かっているのか開かなかった。
それにルナの病状がやわらいでいる。ここでることは得策には思えなかった。ここは温かい。ここにいるのがルナのためになる。
ルナは、私の妹は、私が絶対に守る。
「う、うう・・・ん」
その時、男が身じろぎした。私の体が強張った。
男がゆっくりと起き上がる。そして私を見た。私と目が合うと驚いた顔をして、ニタリと笑った。アレは奴隷商と同じ笑みだ。
「・・・具合はどう?」
男が話しかけてきた。
「大丈夫です・・・。
・・・・助けてくださって、ありがとうございました・・・。」
私はゆっくりとそう言って、頭を下げた。感謝の気持ちは本当だし、男を怒らせてはいけない。私とルナの命は細い一本の糸でつながっている状態なのだ。
男は視線をずらすと、私の手を見た。そして足を見た。
私の手足は丘を転げ落ちたので泥と傷だらけになっている。奴隷商館を逃げ出してたからはまともにご飯も食べていなかったから、手足も細い。
男は立ち上がると、隣の部屋に歩いて行った。何を考えているかはわからない。私たちの命はあの男に握られている。
奥から水の流れる音がした。結構な量だ。もしかしたら家の中に井戸があるのかもしれない。そんな大きい家ではないようだが。
男が戻ってきた。
「君、名前は?」
「・・・ユウ」
私は偽名を名乗った。奴隷商館でつけられた名前だ。商館では前の名前は聞かれない。そして、新しい名前をつけられる。以前の自分は死んだという意味でだ。この名前は嫌いだ。でも、”本当の名前を家族以外にに呼ばれるのもっと嫌だった”から、商館から逃げ出した後もずっとこの名前を使っている。
「そうか、ユウくんはお腹が空いているかい?でも家には買い置きがなくてね。シャワーを浴びたら買いに行くから少し待ってもらえるかな。」
シャワー?男が何を言っているか理解できなかったが、食べ物をもらえるらしい。良かった。私はともかくルナには栄養が必要だ。パンはもう私の手にない。
男はそう言うとまた、隣の部屋に移動した。しばらく水の流れる音だけがする。
そして、男が戻ってきた。裸で腰に布を巻いている。水浴びでもしてきたのだろうか。
「じゃ、ユウ君も服を脱いでおいで。」
「わかりました・・・」
私は頷いて服を脱ぎだした。
こういうことになるのはもっと先だと思っていた。だが、世の中にはいろいろな嗜好があることを教えられている。
私はどうなってもいい、ルナさえ無事なら、それでいい。
だけど、ルナを汚すことだけは許さない。