#03
(リナ視点)
私は路地を走っていた。
このパンをルナに持っていかなければならない。幼い妹はもう2日もご飯を食べていない。
人様のものを盗るなんてお母様はきっとお怒りになるだろう。けれどルナは昨日から高熱も出している。水を飲むのだって辛そうだ。そんなルナを見ているだけなんて私にはできない。
路地裏を抜けて、草が生い茂った丘を登る。丘の中腹には使われていないボロボロの馬小屋があって、そこでルナが待っている。一昨日に見つけた場所だ。雨がしのげる素敵な場所だ。
後ろを振り返るが店主のおじさんは追ってきていないようだ。途中であきらめたのかもしれない。
「ごめんなさい、ありがとう・・・」
私はホッとして、そう呟いた。
そして小屋の扉を開けてハッとした。
小屋の中には2人の男がいて、ルナを抱えていた。革の鎧を着た、冒険者風の男たちだ。奴隷商館で見たことがある。あの悪魔みたいな笑い方をする男の護衛だ。
「やめてっ!放して!」
私はルナを抱える男の手に飛びついた。不意を突かれた男がルナから手を離す。私はルナを抱きしめると、その勢いのまま小屋の奥の壁にぶつかった。
すると、腐って割れていた壁が崩れて、私たちの体が勢いそのままに小屋の外に飛び出す。私はギュッとルナを抱きしめた。丘を転げ落ちる。丘の裏は川だ。追手からは逃げられるかもしれないけれど、助からないかもしれない。とくに体力を失っているルナは・・・。
ルナを抱きしめながら坂を転げ落ちる私は、体を打ちつける痛みで意識が飛びそうになる。
「お母さん・・・助けて・・・」
そう強く願った時、紐で首にかけていた指輪が強く光った気がした。
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それからどれくらいの時間が経っただろう。
「ルナ!」
私は焦って上半身をおこす。とたん、痛みが走った。
あたりは暗い。だけど、ところどころ宝石みたいに小さく奇麗に光るものがあって、完全な暗闇というわけではない。すぐに周りが見渡せるようになった。
「ここは・・・どこ・・・?ルナ・・・?いたっ」
私は立ち上がったけれど、体に痛みがはしってふらつき、テーブルに手をついた。その時、目の前の四角い枠がパッと眩しいくらい明るくなった。