2.
舞い散る粉雪。その中で俺たちは狼型魔獣と戦闘をおこなっていた。
二匹の白い狼が俺を執拗に攻撃してくる。
牙、爪。持ちえる武器を活かした狼の攻撃に翻弄されていた。
鋭い眼光を受けながらも俺は剣を握る右腕に力を込めた。
「セァッッ!!」
気合いと共に一振りで左から迫った狼を斬り伏せる。
クゥン、という小さな絶命の声を聞き、俺は右の狼に意識を向けた。
狼は俺を覆いかぶさるように飛びかかってきた。
咄嗟に左手で作った拳を叩き込む。
大きく軌道が逸れた狼は体勢を整える。
「グルルル――」
僅かによろめいたのは俺の拳が効いたからか。
俺は駆け出し、狼に迫る。
飛び退ろうとした狼に対して俺は地面に薄っすらと積もり始めていた粉雪を蹴りで巻き上げた。
狼の視界は一瞬で零になる。その隙を逃す程俺は甘くない。
刺突。狼の命を奪うのにはただそれだけで十分だった。
粉雪が晴れてくると、俺の持つ鋭利な剣が狼の鼻先から頭の奥へと深々と刺さっているのが見えた。
(命を奪うのはやっぱり、いたたまれないよな)
自然の摂理であるのは仕方がないのだが、それでもやるせない気持ちはある。しかしだからといって何もしなければこちらが殺られるのは目に見えて明らかだ。
「終わったぜ、リアン」
俺が剣をしまった時に声をかけてきたのはアイゼンだ。
彼の方も戦闘が終わったらしく、こちらへ駆け寄ってきた。
「あとはシエルか……」
俺が確認しようとした時には既に戦闘が終わっていた。シエルもこちらへ駆け寄ってくる。
戦闘を終えた彼女は妙なことを口にしたのだった。
「おかしいよ……絶対おかしい……」
「どうしたんだ?」
俺は気になったので尋ねる。するとシエルは何かを考えるように真剣な面持ちで軽く俯いた後、きっぱりと言った。
「何か異常なことが起きてるんだと思う。この雪山で」
言われた俺とアイゼンはそびえる厳乱山の頂を仰いだ。
「異常なことって?」
俺の問いにシエルは軽く首を横に振った。
「分からない。けど、あの狼たちはもっと上の方で暮らしてるんだと思う。どうみても毛並みが低地向きじゃないし……」
確かに、この低地では灰色の方が隠れやすい筈だ。白などかえって目立つ。
厳乱山は登れば登るほど雪も強い。狼はその環境に適応するために毛並みを白くした。シエルの予想は当たっているだろう。
「異常なことが起こって狼たちが下まで降りてきた。越えるには注意が必要ってみてぇだな……」
アイゼンも声色を固くして言った。
重苦しい空気が漂う。俺はその空気を打破すべく、笑顔で切り出した。
「まぁまぁ、何か起こると決まったワケじゃない。ほら先を急ごうぜ。何かに遭う前に越えちゃおう」
俺の言葉にシエルとアイゼンは微笑みながら頷いてくれた。