1.
温かい空気に乾いた木の香りがした空間から一歩外に出ると、突き刺すような冷気に包まれる。
俺――リアン・ディールは木造のとある雑貨屋から外に出たところだった。外では相棒のアイゼン・グリッダ、もう一人の旅の仲間シエル・ラーグナーが新調した服の確認をおこなっていた。
「なんか変じゃない?」
俺に確認を求めるのはシエル・ラーグナー。
彼女はいつもの青を基調とした服装の上に茶色い毛皮類のコートを着ていた。濃い紺色の髪はフードの奥に隠れている。足元は軽く動きやすい靴ではなく、防寒を重視した長めのブーツになっていた。得物の短剣はコートの内側の腰に付いているという。
「大丈夫。中々似合ってるよ」
「へへ、ありがと……」
満面の笑みで返すシエルに俺も自然と笑顔になった。
「お前も様になってるじゃねぇか」
俺の肩に手を回した青年は金色短髪のアイゼン・グリッダである。
彼はシエルとは違い、パッと見た感じでは防寒を意識しているように見えなかった。
いつもの金属鎧といった格好である。
しかし、どうやら鎧の中で暖かい仕様に代わっているらしかったが、外的にみれば分からない。
俺の方はというと、基本はシエルと一緒だ。
防寒の為、黒を基調とした服装の上に茶色い毛皮のコート。足元は茶色いブーツで、足首の辺りがもこもこしていて暖かかった。
「それじゃ、行こうか」
俺に促される形でシエルとアイゼンも歩き出した。
帝国領北東部。
季節も季節である。この地域では雪の降り始めも早く、降雪量も多い。
俺たちが何故こんな辺境を旅しているのか、その理由は湯治である。
簡単なことだった。二日前、意識も混濁していたシエルの為に俺とアイゼンで、有名な保養地を訪れようと決めたのだった。
案の定彼女は大喜びだった。
しかし、温泉への道は険しい。
有名な温泉地――エウディアは帝国領北東部に高々と(大陸中央のウィーナ神山には負けるが)そびえる厳乱山を越えた先にある。俺たちは今その厳乱山を登り始めていた。
「道順に大きな渓谷がある。落ちたらエウディアまで合流出来ねぇぞ」
注意を喚起するのは隣を歩くアイゼン。
その注意を俺たちはしっかりと受け止めた。
「そういえばシエル。体はもう?」
シエルはニコリと笑って答える。
「もうほとんど大丈夫。たまにダルくて気持ち悪い時があるけど……」
「そうか、無理しなくていいからな……気分悪くなったら言いなよ」
「うん、ありがとうね」
シエルは笑顔で返してくれた。