Epilogue
いつの日だったか嗅いだことのある匂い。イグサだったか。たしかタタミのある部屋の匂い。
気が付くとタタミの部屋でしき布団の上に寝かされていた。
視線だけ動かして小ぢんまりとした部屋に他に人がいないことを確認する。
ここは? 竜は? 誰もいない?
朦朧とする意識の中、俺は何も考えず木目の綺麗な天井を見つめていた。
また眠くなってきた。
睡魔が忍び寄り、意識がまどろみに呑まれそうになった時、凛とした声で意識は戻された。
「リアンッ!!」
声の方へ顔を向ける。そこには肩にかかる紺色の髪を持つ、優しそうな少女。その少女は目に一杯の涙をたくわえ――――
少女は俺の胸に飛び込んできた。
一瞬息が詰まったが、安心できるぬくもりがすぐに伝わってくる。
「心配したんだから……」
涙に濡れる声。
「ごめん。それと、ありがとう」
「ここはエウディアの温泉宿。アイゼンは隣の部屋で寝てるよ」
落ち着きを取り戻した彼女に状況を説明してもらう。
「竜はどうなった?」
「リアンが倒したんだよ? 記憶無いの?」
「ごめん。ところどころ抜けてて」
俺は苦笑気味に笑う。
「そっか。しっかり休まないとね」
「ここまで運んできてくれたのは誰?」
問いかけると彼女は少し視線を逸らし、
「フィレイナって人」
その名を聞いた俺は視線を天井へ戻した。
「フィレイナは?」
少女は淡々と言う。
「あの人は、リアンを宿に預けると足早に立ち去ったよ」
「そっか、最後に少し話をしたかったな」
俺の言葉を聞くと少女は少し不機嫌な表情を作って、
「『ありがとう、私は自分の正義を信じる』って伝えてって言われた」
俺は安堵で笑みを漏らした。
「またエウディアに寄った時にはギルドに顔出さないとな」
少女は不機嫌な表情だったが、俺と目が合うとおもいっきり抱きついてきた。