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3.

 俺はフィレイナに近寄って容態を確認する。

 外傷は見当たらないがどうやら骨が数本折れているのだろう。

 激しい目眩が頭の中に残るが俺は俺を睨みつける一匹の竜へ視線を返す。

「フィレイナ。待っててくれ」

 その言葉は気絶した彼女に聞こえたのかどうか分からなかったが、俺は三度みたび剣の柄を握り直す。革製の握りやすい感覚だけがクリアに感じる。

「すぐにコイツを片付けるッ!!」

 俺と暴食の狂王が駆け出したのはほぼ同時だった。




 剣を振るう。その剣先は僅かに腹肉をえぐるが決して致命的ではない。それよりも暴食の狂王の攻撃による俺へのダメージの方が深刻な状況を作っていた。

「ぐ、うぅ……」

 暴食の狂王の攻撃は当たれば必殺である。一撃で俺を瀕死まで追い込むことだろうが、俺は必至に回避や弾き(パリィ)に専念することでそれをけていた。それはまた攻撃の機会を逃すことと同義である。回避に専念すればするほど攻撃の手が止まってしまう。機会を測る天秤のようなものである。剣を取れば守を捨てることに、守を取れば剣を捨てることになる。

 現に今も防戦一方である。

 爪撃そうげきを剣で|弾きつつ、バックステップで距離を取る。すぐさま追撃の尾が迫るがバランスを崩して転倒したため偶然にも一撃はけることが出来た。

「このままじゃ体力スタミナの面で限界が……」

 既に息があがっているし、心臓が急速な鼓動を繰り返す。しかも積み重なる小さなダメージは俺をまともに立たせてくれない。ふらつく足で雪原を蹴る。

 俺は暴食の狂王の懐に飛び込み、剣で喉部を斬りつけようと振り上げる。しかし暴食の狂王は黙って斬られるだけではなかった。


――グボォォォォォオオオオオアアア!!!!!!――


 爆音とも轟音ともとれる咆哮は俺の耳を潰すべく渓谷中に響き渡る。俺は耳が潰されないように反射的に耳を塞ぐ。間髪を入れずに暴食の狂王は衝圧撃スタンプを放った。直撃はしなかったがその余波は俺を軽々と吹き飛ばす程の風圧と衝撃をはらんでいた。

「ぇ……ぁあ……」

 巨大な氷にぶつかり、肺の中の空気が一気に排出される。

 数回咳き込み、肺の中をしっかりと酸素が満たされるまでは数秒の時間を有した。

 結果。


 顔を上げると、獰猛な悪顎アギトを強烈に開いて噛みつかんとしている暴食の狂王がそこにいた。

 俺の選択肢には反撃も回避も何も残っていなかった。


 残されたのはただ迫る脅威に対し怯えて食われるか、睨みつけながら食われるかの二択だけ。


「クソッタレがッッ!!」


 俺は血が滲むほど歯を噛み締め、固く固く左拳を握りしめてその瞬間を待った。

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