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間章
「吹雪が弱まった?」
シエル・ラーグナーは茶色いコートを抱える左手に自然と力を込めていた。
「別に心配はしてねぇけどよ。アイツどこ行きやがった」
アイゼン・グリッダは苦笑混じりに後ろ頭をかく。
「待ってて、すぐに向かうから」
黒髪の少年が着ていた茶色いコートへ視線を落とし、僅かに瞑目した。そしてエウディアとは反対方向へと歩を進める。V字渓谷の底は一本道なので一度突き当りまで引き返す方がすれ違いが少ない。
今までは強く吹き荒れていた純白の弾幕が突如として弱まっていた。それはまるで何かの怒りを買わないとするように。
視線を晴れかけた吹雪の先へ向けたその瞬間。
全てを喰らい尽くす決意を秘めたような獰猛な咆哮が渓谷中にこだました。
「アイゼンッ!!」
「あぁ、俺たちが向かう方向だ」
先ほどの苦笑は完全に消え去り、鬼気迫る表情を露わにしている。
「行こう。もしかしたら」
シエルの言葉にアイゼンは抜剣で答えた。
シエルは茶色いコートを抱える左手に力を込めた。