ロストアーミーイズノットデッド7
「いやー、すげーなお兄さん、海賊船を一人で制圧しちまうなんて」
「それも一人も殺さずってな、たまげたたまげた」
商人達が伊織と海賊達を囲んでいる。
「それにしてもあの処刑人ゴールドがこんな小娘だったとはな……」
商人達の話を聞いたガレットはおかしな顔をして口を開いた。
「ゴールド?アタシはゴールドじゃない、ガレットよ」
「ゴールドって誰だよ?」
伊織の質問に商人が答えだした。
「処刑人ゴールドは悪人の乗った船だけ襲う海賊なんだがな、最近アルダンテの港に来たと思えば今度は商人の船を襲ってきやがったんだ」
「噂によれば絶世の美女だとか……」
「いや、俺は豪傑漢って聞いてたが」
「馬鹿言え、アイツは魔族だろ?」
商人達の噂話はまちまちのようだ。それぞれが全く違った人物像を描いている。
「とにかく、コイツはそのゴールドって奴じゃないんだろ?」
伊織の声にその場が静まり返る。
「じゃ、もう逃がしてやってもいいんじゃないか?」
「それは駄目だ、伊織」
人混みを掻き分けて楓が現れた。
「海賊は罪人、捕まえたら殺さなきゃいけないの、例え少女でも」
ガレットを見る楓の目は哀れみに満ちていた。ガレットもそれをよく理解しているようだ。
「そうか、ならしょうがないな」
そう言うと伊織はガレットを縛る縄を斬った。
「ちょっと伊織、何してるの?」
「何って、縄斬っただけだけど」
悪びれる素振りも無く伊織は話を続けた。
「コイツが罪人ならそのゴールドって奴をおびき出す絶好の餌じゃないか。船に乗せて待ってれば来るんだろ?」
その場の、海賊達を含めた全員が耳を疑った。
「その娘が逃げ出したらどうするのよ?」
「大丈夫、俺が同乗するから」
楓の心配も気にしないといった様子で伊織は親指を立てる。伊織は「それじゃ」と言うと船を陸に繋ぐ縄を斬り、ガレットを抱えて船に飛び乗った。船はガレットの指示で動きだし、どんどん港を離れていく。
「アンタ、こんな事して大丈夫なの?」
「大丈夫も何も、別に目的の為に最良の選択をしただけだろ?」
ガレットの瞳が再び涙ぐみだした。
「違う!アタシを助ける為にこんな無理して、アタシのせいで……」
「そんなに泣くことないじゃねーか」
声を出して泣きだすガレット。伊織はあやすように少女を抱きしめる。
「だって、こんなに優しくされたの始めてなんだもん!」
「そうか……」
そのまま時は流れ、日が暮れて、月が現れ、それでもガレットは伊織から離れることはなかった。
「伊織、アナタこれからどうするの?」
「どうするって?」
ガレットの目は妙に寂しげで、身体はまだ見ぬ恐怖に震えてた。
「ああ、ゴールドの事か。そいつの船を見つけたらお前は逃げてくれ」
「そんな事できないよ!」
ガレットは伊織に抱き着いた。離れたくないと言わんばかりに強く抱き着いた。が、しかし、来てしまった。ガレットのと同じ大きさの、ボロボロの船が、船体を軋ませてやって来た。船上に人影は無く、月明かりに照らされたその船は今にも幽霊が出てきそうなくらいだ。
「さあ、いよいよおでましだ……」
痛い程肌に刺さる緊張感。空気は鉛のように重く、一瞬は永遠のように長く感じる。一刻の沈黙の後、船の扉が悲鳴をあげながら開いた。中から現れたのは黒髪の美少女だった。
「お前がゴールドか?」
伊織の問いに少女は無言でこくりと頷いた。
「商人を襲うのは何故だ?」
「別に無差別に襲っている訳ではない、私の狙いは兵器運搬船だけだ」
細い、しかし凛とした声でゴールドが答えた。
「あれがセントラルに届くと戦争が激化する。だからその前に潰しているんだ」
「そうか、でもよ、お前追っ払わなきゃそのセントラルに行けないんだよ」
「何?セントラルに行くだと?」
ゴールドは驚きの表情を見せた。内戦が激化したセントラルにわざわざ行く者など殆どいないからである。
「どうしてお前があんな所に?」
「ちょっと楓に頼まれてな」
「楓?知らぬ名だな」
ゴールドは何も持たずにガレットの船に飛び移った。
「とにかく、まずはその娘を殺してしまわんとな」
一歩一歩、恐怖がガレットに近づいてくる。ゴールドが手を挙げるとそこに両刃の長剣、バスターソードが現れた。
「せめて一撃で……」
目にもとまらぬ速度で突進、一直線上に旋風が吹く。叫び声すら掻き消す程の風切り音、ガレットの眼帯が吹き飛んだ。
「ほう、これを止めるか……」
刃を掴む伊織の手からは血が流れている。黒い狼と白い獅子、二人の獣はお互いを鋭い眼で睨み合う。伊織はゴールドごと剣を投げると、着地点に回り込み、抜刀と共に勢い良く斬り上げた。それを剣の面で受け止めたゴールドは着地と共に伊織を薙ぎ払う。投げ飛ばされた伊織は船体に身体を打ち付けたが、またすぐに立ち上がった。
「片腕であの威力か……とんだ化け物だ」
「そんなもん振り回してる奴に言われたくねーよ」
またもや先に仕掛けたのは伊織だった。弾幕のように張り巡らされる怒涛の突きの連打。かわすゴールドの身体を高速の剣が掠める。
「お前、名前は?」
「伊織だ」
「ほう、良い名だ、覚えておこう」
ゴールドが伊織の剣を弾くと、今度は逆にゴールドが連撃を繰り出し始めた。
「お前は私が今まで見てきた中で三番目に強い剣士だ」
「なんだ、三番目かよ」
しょげる伊織、それを見てゴールドがくすりと笑う。
「褒めているんだ、一番は我が師、二番が私、その下にいるんだから十分に誇れることだろ?」
伊織は大きく後ろに飛ぶと、目を瞑り、大きく息を吐いた。
「なら今すぐ二番になってやるよ、調度試したい事もあるしな」
一瞬無風になったかと思うと、伊織を中心に風の渦が生まれた。渦は次第に勢いを増し、剣も小刻みに震えだした。
「行くぜ」
伊織が剣を振り下ろすと、斬撃は白い光になって飛んでいった。ゴールドがそれを剣で受け止めると、剣は激しく火花を散らせて斬撃に削られていく。
「ハァァァァ!」
ゴールドの叫びと共に今度はゴールドの周りに渦ができる。渦は斬撃を飲み込み、相殺するようにして消滅した。
「おお、出た出た!」
その場で一番驚いているのは伊織だった。
「伊織、大丈夫?!」
遠くの方から声が聞こえる。夜空を滑空して楓が船に向かって来ている。
「楓、もうちょっと待ってくれよ」
伊織の頼みを無視して楓は船上に着地する。
「まったく、いつまで待たせるつもりよ」
「わりいわりい」
平謝りする伊織。一方ゴールドは楓を見るなり顔色を変えて剣を降ろした。
「メープル……なんでお前が?」
楓も驚きのあまり槍を落とす。
「ゴールドって、ゴールド様だったなんて……」
楓は感極まって泣き出してしまった。困惑する伊織とガレット。
「ゴールド様が生きてあぁぁぁ……」
「そんなに泣くな、私こそ心配をかけてすまなかった」
熱く抱擁をかわす二人。伊織の思考回路がハテナでうめつくされていく。
「どういうことだ?」




