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異世界戦線カプリチヲ  作者: 天沙羅
6/10

ロストアーミーイズノットデッド6

 そこらじゅうで商人達の威勢の良い声が響いている。昼過ぎになっても勢いの衰える事のないこの景色、まさしく商人の街の名に恥じない活気だ。

「で、これから何処に行くんだ?」

 能天気な伊織は饅頭にかぶりつきながら楓に尋ねた。

「さっき言ってただろう、まずは港だよ」

 人を掻き分けて進む楓、伊織もその後に続く。数分歩いて人混みから抜け出すと、二人は倉庫の建ち並ぶ港に辿り着いた。煉瓦造りの倉庫からは何処か西洋的な魅力を感じる。

「バスク、いるか?」

 楓が声をかけるとトカゲ男が倉庫から飛び出してきた。

「おお、楓か、久しぶりだな!」

 目に映る光景に動揺する伊織。無理も無いことで、彼の目にはバスクは単に妖怪か怪物としか映っておらず、伊織は剣に手をかけた。

「待て伊織、コイツは敵じゃないぞ。アタシ達を船に乗せてくれる船長だ」

「このトカゲ男が?」

 バスクは伊織の顔を見るなりげらげらと笑いだした。

「なんだい兄ちゃん、亜種を見るのは始めてかい?」

「コイツはあっちの世界から来たんだ」

 楓の言葉に驚きの表情を浮かべるバスク。

「何、あっちの世界ってことは原種かい?俺はてっきり月種かと思ってたよ……」

「月種?」

 伊織の頭上にハテナが浮かぶ。

「白髪で魔力の扱いに長けた亜種のことだ」

 楓はバスクの方に振り返ると、そのまま話を続けた。

「で、次の船は何時出るの?」

 バスクは困り顔を浮かべながら口を開いた。

「それがな、ここ最近海賊が増えちまってまともに出航できないんだよ……」

「あら、じゃあその海賊をどうにかすればいいのね?」

「さすが楓、話が早いじゃねーか」

 楓は伊藤織の方見て意味深にこくりと頷いた。

「で、海賊ってどんな奴だよ?」

「うーん……あんなやつ?」

 楓の指差す先数百キロメートル、水平線の彼方から現れた船は頭骸骨の旗を掲げ、物凄い速度でこちらに向かって来ている。

「あれか」

「あら、まずまずの大きさね」

 長さ百メートル程の大きさの巨大な船がそのまま街を潰してしまうような勢いで港に向かっている。快晴の空の下、避難を指示する鐘の音が平和な街に鳴り響く。

「バスク、ここの兵隊は?」

「生憎セントラルの内戦で出払ってるよ」

「何?セントラルで内戦?」

「ああ、国王を嫌っていた元老院の連中がついにやりやがったよ」

「やはりか……ともかくまずはここをなんとかせねばな。戦える奴を片っ端から集めてくれ」

 言わずとも分かる戦の臭い。伊織の心は既に獲物を見つけた飢えた獅子のように高ぶっていた。顔には出さないが、否、顔に出さないからこそその異様な雰囲気は楓にひしひしと伝わってきた。

「お待ちかねの戦争だぞ、伊織」

「ああ、待った」

 それだけ言うと伊織は早々に海に飛び込んだ。

「ちょっと、伊織?!」

 楓の声も聞かずに伊織は泳いでいく。が、楓が指を振ると伊織の身体は宙を浮きはじめ、そのまま港まで引き戻された。。

「まったく、魔法耐性無いのにいきなり突っ込む奴が何処にいるのよ?」

「ああ、昨日なんか言ってたな」

 魔力の無い世界から来た伊織には魔力に対する耐性が全く無い。故に魔法攻撃を受けてしまうとその効果をもろに受けてしまう。

「こんなこともあろうかと買っておいて正解だったわ」

 楓は鞄からネックレスを取り出すと、それを伊織に手渡した。

「はい、吸魔晶のネックレスよ」

 六角柱型の黒い、まるで夜空を丸めて形成したような水晶がキラリと光る。

「この水晶を身につけていればたいていの魔法攻撃は吸引してくれるわ」

 伊織は「ふーん」と話を流してネックレスを首に着けた。

「じゃ、後は自由に暴れて来なさい!」

 楓は伊織の胸倉を掴むと、一本背負いのような格好で海賊船に向かって投げ飛ばした。大空を舞う伊織、その姿は海賊達の目にもはっきりと映っていた。

「わあああああああああああああッ!!」

 海賊達は絶叫する伊織に大砲を向けた。掛け声と共に放たれた砲弾、伊織は剣を抜くとまるで撫でるかのように上から優しく砲弾に剣を当てた。砲弾は音も軌道を変え、伊織はより天高く跳ね上がった。太陽を背に船目掛けて急降下する伊織。音も無く着地したのと同時にまず一人、甲板の上で二人三人と息をするが如く海賊を斬っていく。

「なんだなんだ?」

 先程の伊織の声を聞いた乗組員が続々と甲板に現れ、斬られていく。

「どうしたお前等?ネズミでも入ったか?」

 船中から女の声がする。

「お頭ッ!」

 伊織も手を止めて扉の方に振り向いた。扉が開き、中から現れたのは楓と同い年くらいの少女、赤い長髪を後ろで縛り右目を眼帯で隠している。

「なんだ随分大きなネズミが入り込んだな」

 少女はサーベルを抜くと斬っ先を伊織に向けて口を開いた。

「月種のクソ野郎、我がセントクロネッタ号にようこそ。アタシが船長のガレットだ」

 ガレットは周りを見渡し、倒れた乗組員の傷口を凝視した。

「わざと急所外して、どういうつもりだ?」

「チュウチュウ」

 伊織のおどけた様子に腹を立てたガレットはいきなり伊織に飛び掛かった。

「舐めるのも大概にしろ!」

 ガレットの振るう剣をことごとくかわしていく伊織。その表情には何処か余裕さえ感じられる。

「そんな出鱈目な太刀筋じゃ一生当たらないチュウ」

 ぬらりくらりと避けるばかりの伊織にガレットの苛立ちは募っていく。身体はおろかひらひらとなびく上着にすら掠りもしない。まるで踊っているかのように伊織はステップを踏んでいく。

「クソッ!クソッ!クソッ!」

 ガレットは今にも泣きそうな顔で懸命に剣を振る。しかし振れば振る程彼女の悔しさは増していく。数分振り続けたあげくついにガレットは泣きだしてしまった。

「なんで当たらないのよ?!」

「だーかーら、太刀筋が酷すぎるんだよ。確かに一降りは早いけど全く繋がってないんだよ」

「は?意味わかんねーよ!」

 逆ギレを始めたガレット。

「そうか、言ってわかんないなら……」

 伊織は剣を突き出し、腰を降ろして構えた。

「やるしかねーよな」

 瞬く間に詰め寄ると首に一突き。済んででかわしたガレットに追い撃ちをかけるように斬撃の嵐が襲い掛かる。ガレットの剣は突きを弾く度にその刃が欠けていく。

「終わり」

 横に一薙ぎ、ボロボロに朽ちた剣は調度真ん中から渇いた金属音をあげて折れた。

「そんな……」

 その場に座り込むガレット、静まり返る船。伊織一人に制圧された海賊船は港に到着した。


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