ロストアーミーイズノットデッド4
「はしるはしる、うまがはしる」
桔平とマリーが乗る馬は自分の尾を追うようにぐるぐると回っている。
「そんなにはしってどこいくの?」
「どこにもいかない、どこにもいけない」
「回る、回る、メビウスの輪を、か」
双子の少年達の背後から現れた老紳士は二人の後頭部に拳銃を当てている。
「こんにちは、グローリーさん」
「悪いけど僕達今取り込み中なんだ」
二人は顔色一つ変えず、振り返る様子も無く、ただ立ち尽くしている。
「リリウム君、、ルベルム君、何時から挨拶もまともにできない悪い子になったのかな?」
グローリーは寸分違わぬタイミングでトリガーを引いた。放たれた光弾は少年達を捉えること無く地面をえぐった。
「あら、じい、こんな所で何してるの?」
「おや、お気づきになられましたかマリー様」
まるで夢から覚めたような眠気眼でマリーはグローリーを見つめている。
「じいってことはあなたが……」
「はい、いかにも、私がマリー様にお使いしているグローリーです」
グローリーは丁寧にお辞儀をした。西洋式のお辞儀に戸惑う桔平を横目に、老紳士と少年二人の睨み合いはが始まった。
「君達みたいな子供の幻術なんかおじさんには効きませんよ」
「なにいってるのぐろーりーさん」
少年達は足並みを揃えてグローリーに近寄ってくる。
「あなたはすでにゆめのなか」
「ゆめがうつつでうつつがゆめで」
リリウムとルベルムは手と手を合わせると、今度はそれを離し、グローリーに襲い掛かった。
「ワイヤーか……」
グローリーは高跳びでもするかのように少年達の間を飛び越えると、銃口を二人に向けた。
「芸がわかっていれば他愛ないことだ」
二人は飛んできた光弾をかわすと、素早くグローリーの着地点に回り込む。
「へー、本当にかからないんだ」
「こんな人始めて」
「でも……」
グローリーの手足にワイヤーが食い込む。身動きがとれず地面にたたき付けられたグローリーは呻き声をあげた。
「まあこんなもんだよね」
「お姫様のことは僕達に任せて、ちゃんと死んでね」
二人の歪んだ微笑が赤く染まる。全身を切り刻まれたグローリーの身体は小さく痙攣している。
「あっ、失敗失敗」
「次はちゃんと殺してあげるね」
「最期に言いたいこととかある?」
ルベルムがグローリーの顔に耳を傾けた。グローリーは小さく口を開いた。
「お前等だけじゃないぜ、幻術使うのは」
次の瞬間、グローリーの身体は灰になり、ワイヤーの間からさらさらと抜け出していく。灰は二人の後ろで再び一つに纏まり、無傷のグローリーが現れた。
「初老をこんなに動かせて、まったく、悪い子だ」
拳銃から放たれた光弾は二人の身体を貫き、貫き、貫き、無数に開いた穴からは噴水のように血が溢れ出す。
「そんな……」
自分の目を疑っているといった様子で身体の隅々まで見渡した後、リリウムは糸の切れた操り人形のようにばたりと倒れた。ルベルムも後を追うようにリリウムの隣に倒れ込んだ。グローリーは拳銃を腰のホルスターにしま
い、マリーの元に駆け寄った。
「お怪我は有りませんか?」
「ええ、それよりこれはどういうことなの?」
二つの死体を見るマリーの目は妙に冷めていて、それが桔平には不思議でならなかった。
「どうしてまたウィード盗賊団が?全員監獄行きじゃなかったの?」
「それがどうやら今朝脱獄したようで」
「つまりアレが動いたというわけね……」
桔平にはさっぱり意味がわからなかった。
「とにかく、まずは王様に会って事情を説明しなくては」
「では急いで私の工場に向かいましょう」
グローリーが指を鳴らすと突如その場に馬車が現れた。
「さっ、お乗り下さいマリー様」
マリーが馬車に乗り込むと、グローリーは操縦席に座り馬を走らせ始めた。
「そこの若いの、ここは危険だ、あなたも来なさい」
桔平は言われるがままに馬を走らせグローリーに着いていった。
「行っちゃたね」
林道に残された屍が口を開いた。
「いいんだ、計画通り、計画通り」
もう一つの屍も口を開いた。
「でも一つ不確定要素がある」
「なになに?」
「あの青年、僕の幻術を弾き返したじゃないか」
「嘘だ、現にぐるぐる回ってたじゃないか」
「君は馬鹿だな、彼は隠してたんだよ、効いてないことを」
「なんだってそんなこと……」
「わからない、だから不確定要素なんだ」
「追う?」
「いや、身体が動かないだろ」
「確かに、あのジジイ関節全部砕いていきやがった」
「見てるなら助けろよ、ブロッサム」
木の陰から現れたのは先程マリーと一緒にいた女だった。
「ほら、首取って」
「……はい」
ブロッサムは肩掛け鞄から包丁を取り出すと、二人の首を斬り取ると、両脇に抱えて茂みの中に消えていった。




