ロストアーミーイズノットデッド2
「何、お嬢様を見失った?!」
「すみません楓さん……」
「お前はどこまで役立たずなんだ!」
家主の妻に女中が説教をする、なんとも滑稽な様子だがこの家ではよくあることである。
「全く、これでは東京にいた方が幾らも安全じゃないか」
楓はエプロンを脱ぎ捨てると倉庫に向かった。調度自身の身の丈程ある縦長の袋を取り出すと、それを担いで楓は門を潜った。
「おい役立たず、飯の支度と洗濯だけはしておけよ」
概ね従者の主人に対する口調ではない、荒々しいものであった。強張った夫人の顔を尻目に楓は閑散とした大通りを駆けていく。五町程進んだ所で楓は急に立ち止まった。
「あら、気付くのが早かったですね」
「わざわざアンタがおでましとは……」
物影から湧き出るように現れた西洋風の少女は堅牢な大鎌を引きずって楓の方に向かってくる。楓は袋から槍を取り出すと目を鋭くしてその矛先を少女に向けた。
「そこを避けろ、シャムロック」
「まあ、怖い怖い」
まるでその言葉が合図であったかのように、楓は大きく一歩踏み込んだ。槍は一筋の線になりシャムロックの左肩を貫いた。と、目前の少女は宙に溶けるようにして消えて、今度は背後から現れた刃が楓の頬を掠めた。済んででかわした楓は
態勢を立て直す為に間合い取りなおした。
「お見事ですわ」
「思ってもないことを……」
シャムロックは鎌の先端を汚す血を指で拭き取ると、爪先で足元に絵を描き、その血を絵の上に落とした。何も無い土色の地面がいきなり隆起し始め、次第に人型に形成されていく。
「アタシは避けるわ。では……」
そう言うとシャムロックは再び影に溶けて消えた。
「待て!」
シャムロックを狙う楓の槍は空を斬る。その間にも土人形は更に正確な形へと形成されていく。
「なるほど、たいした足止めだ」
楓の前に立ち塞がるのはもう一人の楓。土人形は不敵な笑みを浮かべながら楓との距離を一歩ずつ縮めていく。
「たかだかコピーが……」
楓は先程と同じように、再び強烈な突きを放った。土人形はそれを土の槍で弾くと、楓に反撃を仕掛けた。横薙ぎに土の槍を一振り、楓は後ろにさがってそれをかわす。
激しい攻防が続き、両者一歩も退かない状況。
槍の穂同士がぶつかり火花が散る。
時間の経過と共に楓の身体には傷が増えていく。対照的に無傷の土人形は表情一つ変えずに黙々と槍を振るう。
「互角……いや、ちょっと強めか………」
楓は大きく後退すると、右腕の袖を捲った。腕にびっしりと彫られた入れ墨、楓が左手をかざすとそれはまるで蛇のように彼女の皮膚を這い始めた。
「ホントは嫌なんだけどな、しょうがない」
入れ墨は鈍く輝き、その光が徐々に楓を覆う。
「一瞬だけだからな、よく見とけよ」
光が彼女を完全に包み込み、弾けた本当に一瞬のことだった。土人形は砕け散り、残された土の塊の後ろに楓が立っている、それだけだった。
「やっぱ慣れないな、これ」
楓は槍に付いた砂を振り払うと、四方を見渡した。再び宛も無く捜索を始めようとしたその時、すぐそこの山が怪しく光りだした。
「まずい!」
楓は急いで光の方へと向かった。




