影法師
私は、アイツが嫌いだ。
アイツは、何故か分からないけど、私の真似をする。
まず、容姿。
私が、髪を結んで来たら、アイツも全く同じ結び方をしてくる。
髪を切れば、全く同じように髪を切って来る。
こっそり、ネックレスをしてくれば、アイツはわざと私に見せつける様に、シャツの第一ボタンを開けて、私が付けているのと全く同じネックレスを曝す。
その他にも、弁当箱、靴、筆箱、シャーペン、そして私が手作りの動物の刺繍がしてあるハンカチを持ってくれば、どうやってか、全く同じ物を手に入れて私にわざわざ
「お揃いだね」
と言って来る。
初めのうちは、どうでもいいと思い、無視をしていたが、そんな事を延々と続けられると、さすがに頭に来る。
だから、ある時言ってやった。
「アンタさ、なんであたしの真似するわけ?かなりさ、不快だからやめてくれない?」
すると、アイツは
「別に真似なんかしてないよ。『たまたま』同じなんだよ。全く……人聞きの悪いこと言わないで欲しいなぁ」
そいつの間延びした声にカチン、と来た。
パンッ!!!!
気がついたら、私はアイツを思いっきり平手で打っていた。アイツは、頬を押さえながら尻餅をついた。
「最低ッ!!!」
別に、殴った事は後悔していない。アイツは、私に殴られるような事を、したのだから。
だから、殴られて当然だ。
―――――けれど、その日の夕方、私はアイツを殴った事を後悔した。
私が、友達と分かれ、薄暗い道を歩いていた時、突然、私の横を通り過ぎた人が、私の頬を平手で叩いてきた。
「キャッ!!」
その力の強さに、私は尻餅をついた。
しばし、何が起こったのか、分からなかった。
ただ、口の中に広がる、錆び付いた鉄の味がする、血と頬の痛みだけがはっきりしていた。
季節外れの、長いコートを着て、サングラスをかけ、マスクをしている、その人は、しばらく私を見下ろしていたが、キッと踵を返し逃げ出した。
その時の頬の腫れは、尋常じゃなかった。
翌日、頬に湿布を貼った私の前に、アイツが来た。
「どうしたの、頬」
私と、同じ位置に湿布を貼るアイツを私は、畏怖した。
――――――昨日のは、こいつだ―――――
そして、しばらく時は経つ。
その間にも、アイツの私の真似は、続いたが、私は「あの日」の事を思い出し、何も言わなかった。
そんな―――ある時、私の母が交通事故で死んだ。
信号無視のバイクに轢かれたそうだ。
私は、突然母を失った、事が信じられなかった。
そんな、空虚な私に友達が、こんな事を言った。
「ね、ねぇ…今日さ、アイツの母親がバイクで轢き逃げに遭って、死んだんだって………。これって……どう、思う…?」
その事を言ってくれた、友達は、アイツが私の真似をしてるのを知っている子だった。
私の母が事故にあった日の翌日だった。
何?
どう思う?
そんな事、知らないわよ。
―――――コレはナニ―――――
ナンデ、二日続ケテ、マッタク同ジ様ナ事故ガ起コル―――――?
…………私は、ある恐ろしい結論に至った。
「真似」
マネ
イミテーション?
気が狂いそうだった。
アイツは、しばらく私の前に姿を現さなかった。
しかし、私の方は限界が来ていた。
私は、アイツの家を調べた。
アイツに真相を問い質すつもりだ。
私は、調べる。
……あった、ここだ。
ABCマンション 3○2号室。
エ―――――――――
ABCマンション……3○2号室……?
それは、私の住む、ABCマンション2○3号室の上の階だった。
私は、すぐさまアイツの家に行く。
一応、護身用にナイフをポケットにいれた。
階段をかけあがり、3○2号室のドアの前に立つと、チャイムをならす。
すると、程なくしてドアの向こうから「誰?」という声が聞こえた。
私が、答えようとした時、「ああ、キミか。入っていいよ」と言われた。
私は、言われたとおり、ドアを開いた。片方の手では、ナイフを握りながら。
「何……よ。これ……」
アイツの家の中は、私の家と全く同じ家具が、全く同じ位置にあった。
私は、さっきから顔を見せず、窓の外を見て居る、アイツを睨む。
「前にも、聞いた事あるけど、なんでアンタ私の真似をするわけ?」
アイツは答えないが、私は続ける。
「この部屋にしたって、どうやって、私の家と同じにしたのよ?私、アンタを部屋に入れた覚えはないんだけど」
区切りを置く。
そして、言う。
恐る恐る。
「あとさ、アンタの母親死んだよね?……私のお母さんが死んだ次の日に、全く同じ死に方で。……なんなの、あれ。アンタさ、まさかさ………」
そう言った瞬間、アイツは振り向く。
私は、アイツの顔を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。
そこにあったのは、私と寸分違わぬ、全く同じの顔だった。
一卵性の双子より似てるだろう。
「どうかな?キミと同じ、母親が死んだって境遇になるために、母さんをバイクで轢いたんだけど、その母さんにかかっていた保険料で、整形したんだ。よく似てるだろう?闇の業界で、最高の腕を持つ、闇医者に頼んだら、性転換までしてくれたよ」
私は、そいつの胸にあるはずのない膨らみを見て、絶句した。
「なんなの……アンタなんなのッッ!!?」
私は、半狂乱になって喚き散らす。
「決まってるじゃないか。キミを愛してるんだよ。キミを誰よりも愛しているから、キミにだってなりたいんだ」
そう言って、アイツは、ヒタヒタと私に近付いて来る。
私の顔で、微笑とも冷笑ともとれる、引きつった笑いを浮かべながら。
「さぁ、もっとキミを見せて……」
「い、いやッッ!!!」私は、叫びナイフを出して構える。
それを見て、アイツもポケットから、鈍色に光るナイフを取り出した。
「やめて………」
「やめて」
「いやぁ…」
「いや」
「来ないで」
「コナイデ」
「いやァぁぃッッッ!!!!!」
――――――生暖かい、液体が私の手を濡らす。そして、ニヤリとアイツは、笑う。
「キミも、真似しないとね」
今度夏にあるらしい、夏ホラー小説の練習に書きました。
ホラーを書くのは、初めてでしたが、どうだったでしょうか?
感想をお聞かせ願えたらうれしいです。