それが僕の使命だから。
僕は警部さんと別れて行動していた。
僕は先ほどの喫茶店での行動を今更ながらに後悔していた。
契約者の事を安易に一般人に話した事。
それ自体もいただけない事だが、それは捜査の内にいつかは伝えなくてはいけなくなる事だ。
だが僕はステップを踏まずにして契約者の事を口にしてしまったのだ。
この事件がどれだけ危険で奇怪なのかを警部さんに分からせてから説明しない信じてくれるはずがない。
……ただでさえ警部さんはステップを踏んでいたとしても信じなさそうな人なのに。
「こりゃ怒らせちゃったかな」
でも……どんな障害があろうとも僕は歩き続けないと、走り続けないといけない。
それが僕の……正義感の契約者としての使命だから。
◇
僕は今、立ち止まって考え事をしている。
少し前に話題になったニュースがあった。
それは犯罪者狩り。
警察署の前に指名手配犯や犯罪者が縄で縛って倒されていたのだ。
その倒れた人間に事情聴取をしてもほとんど得られる情報はなかった。
まるで自分が捕まった時の記憶がないかのように。
だが、数人の人はかすかに覚えていた。
しかし、その人達は人格が壊れてしまっていた。
夜を恐るようになった。
影が来ると言うようになった。
暗闇が襲ってくると恐れるようになった。
それほどの恐怖心を大の大人に一瞬のうちに植えつけるには、その人間の心の一部を破壊し、そのゼロの状態の部分に直接恐怖心を与える。
心に恐怖心だけが残るようにする。
そんなくらいの事をやってのけないと無理だと僕は考えている。
心を一度破壊する行為。それは捕食。
犯罪者たちは心の、精神の一部を食い荒らされているのだ。
一部だけを捕食されてあの状態になってしまう。
ならば、心の全てを食い尽くされたらどうなるのか。
「おそらくそれが答えだな」
おそらくこの生死体事件の犯人は……人の心を完全に捕食している。
そんな事ができるのはやはり……。
「契約者……だな」
僕は考えがまとまったところで再び歩き出した。
◇
「ようこそ感情の館へ」
僕はあの時、一人の老人にこの世界とは別の世界に招待された。
「あなたは全てを守ろうとする覚悟がある。勇気もある。
……ですが、あなたには力と資格はありません」
老人はハッキリとそう言った。
僕には誰かを守る資格。
そして力がないと。
「ですがご安心ください。
あなたが望むなら……あなたが本心から自分の『正義感』を貫こうとしているならば……私があなたに力を差し上げましょう」
老人は僕に力を差し上げると言った。
「ですがこの力には代償があります。あなたが契約する事のできる『正義感』には強いデメリットがあります。それは……」
デメリットがあると老人は言った。
だが僕はその力を受け取るしか道はなかった。
全てを守るには……どうしても力が必要だから。
「覚悟はできているようですね。よろしい。
あなたに正義感の力を与えましょう」
そう言って老人は一枚の紙を差し出してきた。
見れば分かる。それは『契約書』。
僕がこの力を手に入れたら、僕にはどんな末路が待っているのだろう。
そんな考えが一瞬よぎったが、関係はない。
僕には力を手に入れる覚悟はできている。たとえどんな代償があろうとも。
僕は契約書に自分の名前を書きはじめた。
「よろしい。これで今、あなたは覚悟、勇気、そして力を持っています。
その三つを持って、正義のために行きていれば、いずれあなたに資格が与えられるでしょう」
老人と僕の契約は終わった。
「英雄になる資格が」
この時から僕と正義の物語は始まった。
「これからどのような困難が襲いかかってきても、けして逃げてはいけません。それは正義感の契約者としての使命から逃げる事と同じ事です。
あなたの心の一部を預かりました。これは契約をした証です。
どうか後悔の無い旅を……」
それは『僕』という存在の終わりと『僕』という存在の始まりを意味していた。
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