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俺はこいつの言う事をバカバカしいと切り捨てた。

これは『感情の契約者ーparty to a contractー世界の矛盾と兄妹の物語』を読まないと分からない部分があると思います。

そちらは9000文字程度で完結する短い小説です。そちらを読んでからこちらを読んでください。

俺はすごくイライラしていた。

ここは警察署前。

俺は警察官。

階級は警部。

俺の隣に立っているのは、俺の有能な部下……。


「まあまあ警部さん、そんな鬼みたいに怖い顔してたら、僕だって逃げたくなりますよ」


……ではない。

こいつが俺のイライラの原因だ。

俺の隣に立つこいつは私立探偵。

ある事件の捜査のために警察と連携を取る事になった人間だ。

俺はこいつの推理力が確かなモノだとは知っている。数々の難事件を解決してきた男だからな。

だが俺が気に入らないのは。


「まあ僕らの『正義感』の力を見せてやりましょうよ。犯人なんて僕らの手にかかれば簡単に捕まえられますよ」


このように事を楽観視する事。

そしてこいつが口癖のようにいう言葉……『正義感』。

こいついわく自分は正義感の感情を守護する契約者らしい。


「バカバカしい」


だが、そんなモノはこいつの妄想だ。俺はこいつの病気かと疑うくらいの妄想を嫌っているのだ。





「じゃまず、事件の整理をはじめましょか」


俺たちは近くの喫茶店に入っていた。


「と言っても、まだ事件と決めつけられた訳ではないがな」


その事件とは……生死体事件。

生死体。その言葉は矛盾している。

生きているのに死んでいる。この言葉はそんな意味になってしまう。

だが、この言葉はあながち間違ってはいない。

命は有る。だが……被害者たちは。


「いや、これは事件ですよ。警部さん」


心が死んでいた。


「だが人の手でこんな事ができるのか?」


被害は確認されているだけで三十二人。


「ただの人では無理でしょうね」


その全員が目立った外傷はないが。


「ただの人……?どういう事だ?」


話す事も、食べる事も、考える事も……他にもいろいろな事をしない……否、できなくなっている。


「もちらん奴らですよ」


その症状を表現するなら……心が死んでいる。これ以外にはない。


「感情の契約者ですよ」





「馬鹿らしい……」


俺は人で歩いていた。

隣にあの探偵はいない。

今は別れて行動しているのだ。


「あの野郎、ふざけた事を言いやがって」


あの探偵は言った。

『奴らは人の身を持ちながら、人にはない力を持っている。こんな当たり前じゃない事件、奴らが関わってないとは思えません』


「なにが人にはない力を持っているだ……バカバカしい」


これもあの野郎の妄想の延長線上だろう。


「やっぱりあいつはイライラする」


俺は歩き続けた。

俺はふと足を止めた。

俺は右に曲がる。

路地裏に入っていく。

太陽の光が遮断される空間。

静かな暗闇が包む空間。

そこに……一人の女性が倒れている。

その顔は青白く生気を感じさせない。


「またか……」


俺は近づいていく。


「またなのか……」


そして俺は意識があるかを確認する。


「大丈夫か?」


肩を揺する。

返事はない。


「あぁ、ああぁ」


いや、うめき声を上げて返事をしてくれた。

意識はある。が、この反応。

症状は一つしか考えられない。


「生死体……か……」


俺はつぶやいた。

そのつぶやきは誰の耳にも入らず、路地裏の冷たく静かな闇に消えていった。

感想などお待ちしております。

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