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第2章 第12話 王都編 広場って憩いの場

夜になって帰ってきました。

休みも今日で終わり。

今年も皆様にとって良い年でありますように。

 広場は凄い賑わいだった。


 露店も数多く出ていて、怪しげなそれ嘘でしょっていう露店、例えばそれって本当に薬?みたいな店では御大層な口上らしき言葉と共に何やら液体が詰まっている小瓶やわけのわからない草が売られているし、大道芸を見せる一団が木剣をお手玉みたいに次々にお互いに投げ合って喝采を受けていた。


 私達も手を叩いてそれを見ていると、それは向こうにある大きなテントへの呼び込みだった。


 もちろん私達はそのテントに入場料を払い入った。


 地球でいえばサーカスもどきのそこは、とても面白かったけど、一番の売りであるらしい猛獣ショーみたいのは興業にならなかった。


 うん、ジョーカーたちのせいだな、うん。


 おびえて縮こまるばかりのそのショーの主役たちに客たちはかんかんだったけど、思い当たる私は、いや私達はそっとそのテントを出たのは言うまでもない。


 それからおいしそうな匂いをする露店があれば喜んで皆で食べ、いかにも怪しい匂いのする食べ物があればじゃんけんしてそれを食べる勇者を選んだ。


 ん?じゃんけんもみんなにも教えた一つで、それは大人たちも便利だ、と言って覚えてくれた一つだ。




 もうきりがないように見えてにぎやかなそこで私達は思う存分遊んでいた。


 そこに「キャー」という幾つもの悲鳴が聞こえて何事かと人々が向かいだした。


 私達も何だろうとそこに向かうことにした。


 広場の外れに近い商業地域とつながるそこに、泣き崩れるエプロン姿の女の人と血に染まって倒れる男の人とそれに抱かれるようにぐったりとする3歳くらいの女の子がたくさんの人越しに見えた。




 私の目はとても良いから・・・。


 みんなにはまだ見えていないけれど、私にはその子の簡素な服につく、あれは馬車のわだちの痕だろう、黒い車輪の痕までくっきりとこんな遠くからでもちゃんと見えた。


 ぐったりしてるその子、血まみれの男の人に抱かれるその子の抱かれる腕の隙間から見える異様にへっこんだそのお腹も、もはや息をしていないその仰向けのその顔もはっきりと見えた。



 「あ~、あ~っ、嘘、うそ~!」


 そうあえぐように口からこぼす女の人の小さな声もこの良い耳はとらえた。




 「可哀そうに」


 「まさか広場で」


 「ここは馬車の乗り入れは禁止だろ」


 「お貴族様だ」


 周囲の町の人間の囁く声があちこちから聞こえてくる。




 みんなが何事だろう?という顔を私に向けてくるので、「馬車に小さな子がひかれたみたいよ」と私は答えた。


 楽しかった時間を思いだし、私が皆に「もどろう」と言うと、皆はあの騒ぎの場所をもう一度見て、それからうなずいて戻ろうとした。


 「死」はみんなにも身近なものだったから、ここにそれがあってもみんなは驚きはしなかった。


 だけど、女の人の「かえして~!私の子をかえせ~!」という初めて聞こえる絶叫にその足が止まった。


 私の、ではない、一番小さな男の子ケビンの足が。


 それに私にそっと近寄った年かさのアンナが「ケビンのお母さん、ケビンのお姉ちゃんが砦に連れていかれそうになった時、返せ!と叫んで殺されたの」とぽつりと教えてくれた。


 私は人に対しての関心はないけど、友達や、あのしょうがない「なりそこない」の連中は守ってあげたい、そう思う自分がいる。


 それもいつまで続くのかは自分でも自信はないけど。


 私はケビンの頭をわざとがしゃがしゃと撫でてニッと笑い、その固まる手をつないだ。


 大きな目を見開いて不安におびえ固まるケビンを連れて、あの騒ぎの場所に私は皆と戻りだした。


 

 


 

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