第1章 第5話 目覚め
夢の中で、私は理解した。
なぜこの生き物がこんな形なのかも。
これはとても異質な存在だった。
なぜ「ある」のかもわからないそれは、形もなくただこの空間に気の遠くなる長い間あった。
それがいつからか自我を持つようになって幾星霜、その感覚のアンテナを広く広く広く、気の遠くなる年月、無意識にはっていた時、何故かこの私とシンクロしたらしい。
わずかな、ほんの瞬きにも満たない一瞬に、「気持ちの良いもの」と認識したそれは、鳥の刷り込みのように私を求めた。
けれどそれ以上はどうすればいいのかわからなかった。
その黒々とした定まりの形も持たぬそれは、初めてそれを訴える声を発した。
そして、私はここにこうして呼ばれた。
私がここにきた事で、それは明確な形をとる必要性を求めて、歓喜のうちに、私の記憶にある形の中でより強い生きものをインプットして形を作った。
それと同時に、私の持つ命の脆弱さを理解したそれは、自分の命のわずかな一部を私にすぐにつなげ、こうして私は今まどろみの中にいる。
究極の睡眠学習だな、と少しだけはっきり意識の浮上した私は思った。
まだ眠れというそれに優しく促されて、私はもう一度眠りについた。
意識の片隅で、それが何かを生み出しているのを感じつつ、アメーバ―じゃないんだからさぁ、と思いながら,その体から別の生き物を増殖させているのを、呑気に寝ながら感じていた私は悪くないと思う。
ぱっちりくっきり目が覚めて、そこで私がみたのは、薄明りの空間にとんでもなくでかくなった「それ」と、いつのまにか、それの代わりに私を抱いていたライオンを凶悪にして、更に大きくした感のある生き物。
私が目を覚ましたのがわかると、私を抱いていたネオライオン君もどき、羽根つき、が嬉しそうに鳴き声をあげ、それと同時に空間にひしめく百鬼夜行ともいうべき群れもまた一斉に鳴きだした。
それはファンタジー小説に出てくるような、まぎれもない妖獣、魔獣の群れだった。
この時ばかりは、あいた口が私もふさがらなかった。
いや、何かしらをあの生き物が自分の体から発生させてたのは感じていたけどさ、これなわけ?
そう思うと同時に、自分の読書癖を初めて後悔したのだった。
どれもこれも私の記憶の中から引っ張り出した形なんだそうだ。
より強いものたちの具現。
ひときわ大きな声を上げて、犬であれば「褒めてほめて。」といった感のあるそれが、はるか頭上から興奮のあまり、よだれを垂らしながら鳴く。
そのよだれが落ちた場所がじゅっと音をだし、嫌な臭いと煙をはなっている。
えっ?ここって床って感じじゃないけど溶けるんだなぁ、・・・はい、現実逃避です。
そのよだれを避けきれずに、かかった数匹が悲痛な声をあげる。
「お~!よしよし。」
私はそれらの所にあわてて近より、大きな図体の癖に、私の元でお座りするように小さくなりながら、痛いと訴え甘えるそれらの頭を撫でてやる。
私が上を見上げて「メッ!」とすると、みるみる大きさをかえて小さくなり、ごめんね!とばかりにシュンとする「それ」。
何このカワイイ生き物。
しょんぼり垂れる尻尾も子蛇のようで、それが何本もユラユラ揺れている。
その尻尾の先の、どうみても蛇の頭だろ、それ!の部分からしゅうしゅうと舌をだし、毒を滴らせた牙をのぞかせているのも愛嬌だ。
なぜか私は、この生き物のいずれにも自分が傷つかないと知っており、そのシュンとした原初の生き物のよだれをごしごしと拭いてやりながら、うん、制服の袖とけちゃったけど・・・・、ガシガシと頭を撫でてやった。
「気を付けるんだよ、あんたは別格なんだから。」
と言い聞かせながら。
皆、期待を込めて私を見ているのがわかる。
「名前を。」「名前を!」と私にそれを望んでみてくるので、私を元の世界から呼んだ原初の生き物から名前を付けてやった。
名前は「ジョーカー」と。
なぜかわかる「強いもの」から順番に、トランプの柄とその数で名前を呼びながら名付けた。
やがて、それが足りなくなると、暦を使い名前をつけた。
1月の群れ、2月の群れ、そしてそれぞれ1日、2日と。
うん、ひどいよね、だけどさ、名前考えるのってめんどくさいじゃない?
ちなみに、ジョーカーのよだれを浴びて痛がってた個体たちも、それぞれスペードのエースとか名前をつけてあげると、みるみるその傷を回復していった。
それぞれが名前と共に、存在を更に強化していくようだ。
えっと、・・・ジョーカー、あんたにはそれ以上必要ないんじゃないかなぁ?
私が見ているうちにもより複雑に装甲のように形状を変えていく彼ら。
それぞれの雄叫びのような咆哮をとどろかせて、しばし皆のバキバキだの、ボキボキだのの音を聞きながら、私はジョーカーに促されて、ジョーカーのお腹に作られつつある膜に取り込まれていく。
そこは暖かくやさしく、おきたばかりだというのに、また私は眠りに誘われていく。
すでにこの子たちの存在は確固としたらしい。
もはやこの閉じられた空間にいる意味はない。
この空間をたやすく引き裂いて、ジョーカーの迫力のある咆哮の中、私達は大移動した。
新たな世界へ。
まどろみの中私が思い浮かべたのが、「ロードオブリング」のような世界だった。
ああいうところがいいな、と。