第2章 第5話 お手伝い
露天風呂探しの旅に出たはずが、まったりとこの町で友達と遊び一日一日がこうして過ぎていく。
友達たちもそれぞれの家のお手伝いもあるから、その時間は誰かについていって、一緒にお手伝いをするんだ。
片言とはいえおしゃべりをしながらね。
はじめのうちは、何だか家族の人達やその周囲の人たちは、凄く固まって私がいるとダメだったけど、自分の子供が平気で私がお手伝いに失敗すると叱ったり、頭をペちんとするのを見て、そのうちその固さも少しはとれてきたように思うんだ。
子供がする小さな仕事のいろいろ、幼い弟妹の世話や掃除や籾ふみ、それらを私は教わりながら手伝った。
そうしてそれが終わると午後には皆で陽がくれるまで遊ぶんだ。
赤ちゃんなんかは親が忙しい時には、そのまま一日中面倒をみなきゃいけなくて、私はうら覚えの赤ちゃん用抱っこひもを、例のジョーカーのぷよぷよ膜を出してもらって丈夫なのを作った。
赤ちゃんがいる時におぶる順番もじゃんけんで決めて、もちろんその場にいればジョーカーもハートの子たちも例外なく強制参加だ。
残念だけれども、かさねがさね残念な事だけれども、ジョーカーたちはじゃんけんできない。
なので彼らがいれば、なんだ、ごめんねェと必然的に彼らが子守りに順番でなる。
だから私達は子守りの子がいれば、必然的にジョーカーたちをまず探す。
みんな慣れたもん。
彼らの背中は居心地がよさそうで、特にハートの子らのはフカフカだし問題なし。
ん?クローバーの子らは・・・ダメだった、本当に問題外だ。
何せすぐ地面に潜って遊ばせようとするから。
無理だから、赤ちゃんに地面の中は無理だから!
最初に子守り係りになったクローバーの子の様子を何気に見ていて正解だった。
勢いよく潜り込もうとするクローバーの子を止めたあの時の私の生涯初という絶叫を聞かせてあげたい、ほんと危なかった。
どこまで潜り込む気でいたのか・・・。
あと、ジョーカーもとても下手だった。
ジョーカー自体はどっしりと構えて、背中の赤ちゃんも大丈夫で安心なんだけど、あの尻尾の子蛇ちゃん達が何を思ったか、きっとどこかで私がおぶい紐のイメージを伝えた時、赤ちゃんのおもちゃのガラガラも見たらしく、「どうよ!」ばりに私を、子供達をチラチラと見ながら、自分たちでおもちゃのガラガラばりに赤ちゃんの目の前で揺れまくるんだ、得意そうに。
ジョーカーたちがお守の時は、おぶい紐もどき背中くくりつけバージョンは、綺麗に赤ちゃんを透明な膜で包んで保護してるんだけど、すやすや気持ち良く眠る赤ちゃんの前で締まりのない口から零れ落ちる毒や酸を垂れ流しながら体をふって動く子蛇ちゃんたちは、あまりに見ていてひどかった。
その癖得意満面な子蛇ちゃんたちのその残念な様子に、私も子供達もどん引きした。
それ以来私達は暗黙の了解でジョーカーは綺麗にスルーしてる、子守りに関してはもはや残念だというほかないから。
子供達を通してジョーカーたちも私も徐々にこの世界のありように慣れてきたと思う。
もちろんエンちゃんたちにもだけど。
エンちゃんたちは今いちうさんくさかったんだけど、今はクローバーの子らにまかせている事もあって「なりそこない」とか「できそこない」とか呼ばれているとはいえ、私のちょっとだけあるゴメンネの対象でもあるからそれなりに私なりとはいえ少しは意識していると思う。
で、あのうさんくさい親玉のレアル王子、え~と今は王様になったんだっけ?
その親玉の見世物ショー、王様になる儀式はこの間のお祭りの時、どさくさに紛れてしちゃった「あれ」らしいから、それじゃなくて正式なお披露目とかを今度王都でやるんだって。
ずっとずっと臣下の人達は準備してたんだって、それなのにやっちゃったからね、戴冠というの。
でもね、それってさぁ元からやる予定のを勝手にあの真っ黒黒すけ王子がやっちゃっただけで私には関係なくない?
そうエンちゃんにはいったんだけど、ロウゼがパーティーみたいのがあるからきっと楽しいし、お友達も一緒においしいもの食べにいくと思えばいいと言ったの。
私にはきてほしいってレアル王?から頼まれたエンちゃんがおこづかいもみんなで遊べるくらいくれるっていうから、みんなに聞いたの
そしたらみんな目をキラキラさせてさあ、その様子を見たらねぇ。
お友達のみんなも一緒にいっていいっていうんだもん。
遠足は怖くて前の世界では行った事ないもんね、私。
何たって班決めなんて、ブルブルもんだもの、絶対無理でいつも欠席してた。
いろんな理由をつけて。
先生だってクラスの人達もほっとしたに違いないよ。
で、人生初のこれって、「王都遠足」だよね。
みんなもこの町から出た事がないんだって。
私とほとんど一緒だよね。
おこづかいもくれるっていうし、みんなで早く行きたいねって話してるの。
だから最近は手っ取り早く行きたいから、みんなもちょこちょこハートの子らに乗る練習をしてる。
これが面白いらしく今じゃみんな空を飛ぶのに夢中だ。
今もハートの子らの小さい方の子らにまたがって空を飛んで練習がてら遊んでいる。
私はジョーカ―に寄りかかって冷たい泉に足をひたし、手をふってくる友達たちに手をふりかえしてる。
なんとこの子らの練習の為に泉の面積を広くジョーカーがしてくれて、最初のうちはこれぞ低空飛行の見本みたいに泉の上でおっかなびっくり練習していたのに、今じゃ自由に空を飛びまわっている。
さすがにエンちゃんたちと遊んでいる大きなハートの子らには乗れないけれど、小さい組は小さい組でうまくいっている。
で、私の背後にはうじうじしてるクローバの子らがいる、現在進行形で。
しょうがないよね、子守りは無理だしましてや空は飛べないし、君ら。
私はクローバーの子らの頭をよしよししながら、この子らとも遊ぶ方法を見つけてあげなくては、と思った。
それは思いがけずすぐに解決した。
クローバーの子らは年寄り連中や大人と遊びはじめた。
新たな土地の開墾や畑仕事の手伝いだ。
恐る恐るお願いにきた町の人達もあれからだいぶたち、クローバーの子らの口に、その日の収穫の余りをあげれるようにもなるくらい仲良しさんだ。
特に年寄り連中とはウマが合うようで、畑仕事の手伝いを毎日いそいそとしてる。
時々腰が痛そうなお年寄りの治療まで、あくまで軽くしてあげているようだけど、何せ癒しパワーは半端ないから、ちょびっとでもあら不思議、「治っちゃった」になる。
ますますそれで仲良しさんになっている。
そんなこんなでこの町で皆でデレデレまったりと過ごしていたけど、明日にはいよいよ王都とやらの遠足に出発する日だ。
おやつには何を持っていったらいいかエンちゃんに聞きにいこうとしよう。
私は気持ちの良い泉から足をひきあげると、空にいるみんなに手をふって、今日は私が背負ってる赤ちゃんの背中をとんとんと叩きながら歩き出した。
ジョーカーとクローバーの子ら以外、みんな空で遊んでるんだもん、今日は私が自分から子守り当番に名乗り出た。
このおぶい紐もどき、すんごい性能だから、町の赤ちゃんがいるお母さんに順番であげてるの。
それをエンちゃんやロウゼたちが羨ましそうに見るものだから、ついこの間なんちゃってベルト風味のを作ってあげたんだ。
危ない時は瞬間で全身おおうんだよ、かしこい膜さんだよね。
驚いたことに、この膜は生きているらしいの、びっくり。
それになまけものだけど、気分がのらないと活動しない。
あまりにもエンちゃんたちが「なさけない」らしく守ってあげてる。
まあまかりなりにも、うちの子らの末端の末端、かすかにひっかかってる程度の存在だけど、一応私と一緒で意識してるらしい。
もちろんそれを知った私が友達にも腕輪タイプの膜さんを作ったのは言うまでもない、こっちのが大事だ。
それにしてもエンちゃんたちの名称がもう一つ増えたね、「なさけない」だ。
あっ、いけない、いけない、そんな事よりエンちゃんとこに遠足のおやつ聞きにいかなきゃ。
町のお店の人達がおいしいお弁当や日持ちのする食べ物を持たせてくれるというのを聞いたけど、何といっても遠足に一番大事なのは「おやつ」でしょ。
私は空飛ぶ友達たちにヒラヒラ手をふりながら一路エンちゃんの元に急いだ。




