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番外編 ②その誉れ

久しぶりに、理由もなくどよ~んとなりプライベートではっちゃけすぎて2日寝てません。

で、そのテンションのまま更新です。


新しい住人の視点から。

 はじめそれは噂だった。


 あの恐ろしい邪神が我がグル―ノス帝国を加護しているという。


 なぜ邪神がこのアウロリアにご降臨なされたのかの噂もまことしやかに同じように流れた。


 我らがラオナ神は太陽の化身であり恵みある昼の神、そして万物の父であり母である神。


 そのラオナ神が最初に作られたのが夜の神、怒りと復讐の神である邪神であると。


 ラオナ神の奥深くに守られ誕生後も夜の神はその破壊神の性ゆえ存在を秘し眠りについておられたという。


 しかし、あまりのアウロリアの愚かな国々の争いや人族や他の種族の永きに渡る確執に、ラオナ神がその尊い御心を痛められるさまにとうとう夜の神が目覚めた。


 ラオナ神もその身の内に眠っていた夜の神がめざめたのは理由があるだろうとおぼしめし、こうしてこの地に遣わされたのだという。


 ラオナ正教は今までの歴史上、どのようなささいなラオナ神に対する誤った教義や新しい考えにも、それが幼子の戯れの言葉だとしても厳罰に処してきた。


 ところがこのまことしやかな噂に対しては何のアクションもとらず沈黙のみだ。


 それが余計その噂に信ぴょう性をもたせていた。





 そしてラオナ正教の教皇でもある聖王アイロン様の次の位であるハウザ大司教、実質の神殿トップの名前で、新しい聖典が黒の大陸、黒の大陸というのは、はるか西にある大型の獣人族が住む地域一帯を総称するが、そこで発見されたと発表した。


 その黒の大陸では大規模な山崩れが発生し、我が国からも第2大隊が友好の証にと救援物資を持って派遣されたのだが、その際に崩落した為現れた洞窟内から未知の預言書が発見された。


 この黒の大陸の大規模な山崩れはラオナ神の尊いお導きによるもので、こたびの邪神降臨についての預言書であったとそれが正式に発表された。


 



 その日世界中のラオナ神殿には、そこの地域に住む大勢の人間が集まっていた。


 正式な預言書の発表が厳かに神官の手で行われるためだった。


 そのような事歴史上一度もなかった。


 はるか神代のみぎり、ラオナ神じきじきにご降臨なされた時の話しが始原の書といわれる教典の第一巻に語られるのみだ。


 自分の時代に預言書がこうして発見されその場にて立ち会うみ恵ぐみに、民衆も貴族も身分に関係なく、もちろん他の種族の帰依したもの達も感涙にむせび、それぞれのできるかぎりの禊をしてこの時にのぞんだ。


 皆発表されるというこの日までのひと月をひたすら祈り過ごした。


 経済活動も全て止まった状態であったが、聖王アイロンの名前の元に、このひと月は質素ではあるが食べ物などが支給され、貴族でさえそれに文句をいうものなどなかった。






 


 私の家は代々建築家で、その足元を飛び立った弟子たちも含め、「レンデファ一門」といえば最高の、といわれるこの道一筋の貴族ではないが名の知れた一族だ。


 私もまた幼い時から大工道具で遊び、名人といわれた祖父直々に仕込まれ、40すぎた今では名工としてレンデファの次代の長として、日々励んでいた。


 私もまたあの日、王都の空を邪神一行がご降臨されるのを見たひとりだ。


 初めはその桁外れな力と町や村に流れ出る妖獣たちの被害により、唾棄すべきものと、我々の忌々しい敵として認識されていた。


 やがて町や街道に出没する妖獣が、邪神一行とは存在を異にするものだと発表された。


 あれらは邪神の気にあてられ、この大陸の悪い物が形になってあらわれたものだという。


 我らを悩ます魔獣の亜種だという事だった。




 本来の邪神達は、はるかソルネイ草原の先ハンニレ山脈におりられ、そこには干渉することなかれと、巫女を通してお告げなされた通りそこからは出る事はなかった。


 それに対して聖王アイロン様の代行のものが正式に挨拶にお伺いし、ラオナ神を通して御目通りがかない、ましてや認められてそこに常駐するようになったというのは、今では小さな子供でも知っている話しだ。


 



 私も家族を連れて、名誉あることに王都の中央神殿中庭にて、ハウザ大司教自らの新しい預言書に関する教話をもちろん一番はるか離れた所ではあるが聞くことができた。


 神殿内は王族や有力貴族の皆さまがおられる。


 そこでの教話をこの中庭で魔法鏡にて写されたものを拝聴できるごく一部の人間の中に入れたのだ。


 ご先祖様もこの栄誉に喜んでくださるに違いない。


 妻のリルゼも子供達も感動に顔を紅潮させ涙を流している。


 やっと柱の一部を作らせてもらえるようになった長男のアダルも二男のサダルもまた目を潤ませている。


 この大陸中が現在こういう状況だろう。




 大司教のお話しは、やはり噂通り新しい預言書は邪神降臨についてだったとお話し下さった。


 何たるラオナ神のご慈悲と奇跡。


 破壊神である夜の神があらわれたのも、尊いラオナ神の御業であられるという。


 いつか遠い未来の日々、我々の子孫たちにはその御心がわかる日もくるだろう。


 例えわが身が人間族が邪神によって滅ぼされるとしても、それははるけきラオナ神の思し召し、何を嘆く事がある。


 皆、この時代に生まれた僥倖に感涙して、見ず知らぬ者達もお互いの肩をたたき合い、それぞれの家々に帰る間も、ラオナ神と聖王アイロンを称えた。




 その後しばらくして、邪神が降臨なされたハンニレ山脈のふもとにて、邪神の為の神殿とその街が作られると聞いた。


 そこに招き入れられるのはまず一流の職人のみ。


 鍛冶に建築、料理に牧畜、全てエキスパートのみが住めるのだという。


 私もまた建築の最高峰の一族をまとめて神殿に申請し、その許可を待った。


 第一次の栄えある住人に選ばれた私は一族の生え抜きを連れて「怒れし夜の都」と名付けられたそこに建築の為の木や石を大量に運ばせながら向かった。


 真っ先に私はその天幕群を見て涙した。


 何たる謙虚さ、さすがラオナの子と呼ばれる我ら信徒の姿。


 まずはもったいなくもこの私が邪神の神殿を造営させていただこう。


 皆休む事も忘れ、他の住人もまた、恐れ多い事に軍人の方々もまた手伝いをかってくださり、急ピッチで街づくりがはじまった。


 木や石は大陸全土から寄進され、それもわざわざここまで運んでくださる。


 そうして街はできあがっていった。





 私は現在街の石造りの道づくりにとりかかっている。


 我々もまた、この街の住人のシンボルである灰色のマントを体に羽織らせていただいている。


 第3大隊のエンブス大隊長以下、「邪神の使徒」と呼ばれるようになった皆さま方は「邪神の御印」と呼ばれるエニグマを直接邪神から賜った。


 その栄誉にレアル殿下より下賜された黒いマントは、特にこの街に住むもの、いや大陸中の憧れだ。


 誰が言いだしたのかは知らないが、この街の住人にのみ同じようなマントは許されないだろうか、という話しになった。


 我々は私財をなげうって、この街に未来永劫尽くし続ける所存だ。


 この街の衣装類を一手に引き受けるサルン商会の人間が王都の父の店はレアル殿下にご贔屓にあずかっている、ダメでもともとお伺いをたててみよう、となった。


 そうしてありがたいことに、そのご許可を頂いた上に、念のため神殿からも許可を頂いて下さった。


 さすがに次代様、我々はレアル殿下に感謝の贈り物をすると同時に、住人のみが許される家紋入りのマントに小さくしかし誇りを込めて、同じような豪華な邪神の眷属の刺繍を入れ、子子孫孫に伝える家宝とした。


 このマントは我らが誇り。


 皆堂々と街を歩く時には身に着け仕事にも着ていく、勿論本物は大事にしまい行事以外には着ることはしない。


 レプリカであるがこれも相当の品である事に変わらない。




 道路に寝ころぶ眷属様が大きな声をあげられた。


 ちょうどそこを通りかかった住人は一斉に空を仰ぐ。


 やはり神殿の奥から邪神と夜の神子様が姿をお見せになられた。


 あのいまいましくも偽物の邪神の巫女を語った一族郎党は邪神の怒りにふれられた。


 今までの数百年と続く身分帳からもその一族の一切合切がのけられたときく。


 また王都でもレアル殿下の元、不敬きわまる貴族の粛清が一斉に行われたと聞く。


 それはご自身のご兄弟にも及んだと聞くが、さぞかしそのようなご兄弟を持たれてご無念であったとお察しする。


 しかしレアル殿下こそ、やはり初代アイロン王の生まれ変わりとの声は衰えることを知らない。


 初代様はラオナ神によって選ばれたお方。


 そうしてこたびの戴冠がすめば、新しい聖王様は、俗名レアル殿下は、再び神話の世界を具現するかのようにこの国に君臨なされる。


 ラオナ神の初子でもあり、ラオナ神の分身でもあるという夜の神である邪神。


 いや正式名はホウル神と申される昼という言葉のラオナの対である夜という言葉ホウルを持つ神により選ばれた方になる。


 このような奇跡の時代に生まれたことに感謝をこめて皆同様祈りながら空を見るとホウル神とその背に乗る夜の神子様が、颯爽と街を飛び出していかれる。


 見ると眷属様方も後を追いかけられていく。


 きっといつものようにハンニレ山脈にあるという「邪神の泉」に禊にまいられるのであろう。


 あそこは決して踏み入れてならない地、ホウル神と神子様、そして眷属様以外は禁足の地だ。


 我々街の住人は使徒様方とここを守り続ける。


 我々栄えある街の住人は、たまに街の外に出る時は、そこの人間やご領主方に話しをせがまれる。


 我々マントを許された街の住人は今や貴族のご領主様でさえ、この身にふれる事さえ許されぬ治外法権をレアル殿下からラオナ正教の名の元に賜った。


 街に住むもの全てを称してホウル神と共に生きる「ホウル一族」と巷では呼ばれるようになった。


 私は時間が許せる時は街の話しを神殿の礼拝の時に神官にこわれてする。


 他の街の人間も地方にいけば時間の許せる限り話しているという。


 なぜなら我らこそ普通の人間で使徒様方をのぞけば、一番ホウル神に近いと思っているからだ。


 子供達は目を輝かせて聞く。


 街のあちこちに邪神の眷属様がゆったりとお過ごしになる様子。


 その傍らで、我々は普通の日常生活を円滑に行っている事。


 料理屋の軒先に眷属様がこられる話しには大人も目を輝かせて聞いている。


 そうして一番大人も子供も目をきらめかせて憧憬の思いを抱くのは、邪神と呼ばれるホウル神とその神子、夜の姫君とも呼ばれるお方が街の空を飛ぶ様子。


 だから私は特に子供達に最後の言葉をおくる。


 神の御業をはっきりとお目にできるこの街は、ホウル神とその姫君を守る街でもある。


 身分には関係なく、ただ一流の職人や秀でる文官や軍人のみが来れる街。


 そこは狭き門だ。


 親がそうだったから子供もそうだとは限らない。


 だから我々も必死に子供を育てている。


 この街に住み続けられる子であれと。


 狭き門だが、そこは神意あふるる神話の世界、思う所あれば精進し、我が街をめざせと。


 この街ははじまったばかりだ。


 我々の使命は、この街をこの大陸最高、最強、不可侵の街にすることだ。


 だから話す機会が神殿であれば、そこに住むものが貴賤の差もなく誰もが訪れる事ができる神殿だからこそこうしてどこの神殿でも話す。


 時には大きな数千の者が入る神殿で、時には小屋としかいえないような10人も入れないような神殿で。


 我が街の未来の発展と誇りのために。


 我がホウルのマントにかけて。


 


 


 

 


 


 


 

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