第1章 第38話 旅立ち
第1章終わりとしました。
(24・01.26)編集
「旅に出る」と宣言した。
一宿一飯の恩義を大事にする日本人の血を継いでいる私としては、ちゃんとそう宣言してこれでいいだろうと思っていたんだ。
だけどこれがもう大変な大騒ぎになった。
エンちゃんも、最近なんか出世して王都にいっちゃったアルまで戻ってきて、やめてほしいのお願い攻撃が続いた。
私の旅に出る意志がかわらないとやっと彼らにもわかってもらった。
で、結局彼らもあきらめて、これ以上言えば私が切れるのを知っているからね。
なぜか彼らの私の扱い方、押すべき時と引くべき時が絶妙になっている。
これも、クローバー君に癒しを受けた後遺症?みたいなもんか、私も嫌だけど彼らの感情の機微がときたま私に流れてくる時があるんだよね。
ぞっとするんで、もうこれから先、何があろうと3月君たちを癒しに使うのは、この世界の人間相手にはしないと決めた。
そうして諦めた代わりだと言って旅に出るための勉強会がはじまってしまった。
この世界の地図、地図というより、ほらあれ小説に出てくるようなお絵かきのような地図を覚える事からはじまり、危ない食べ物や生き物も図鑑みたいのでお勉強したよ。
意味ないよね、なんで急に過保護なの?
まあ、私ってば見た目はまだまだ子供の域を出てないから、私を心配してくれてんだろうけどね。
それと、この世界にある人の住む場所にはいかないでくれ!ってロウゼに必死にお願いされたんだけど、なぜかな?
このアウロリア大陸にはあの変な王子様がつぐ、エンちゃんたちの国であるグル―ノス帝国というのがあり一番大きくて強いんだって。
その他にも2番目に強いのがエンゼイ王国で、他にも5つほどの国と妖精族の住むという幻の国もどこかにあるらしい。
それと獣人やドワーフ達は群れ単位で暮らしている。
どうよ、すんごい知識でしょ、もういいよね、この過保護ぶり正直ありがた迷惑なもんで、もう旅に出ていいよねと私は必死にアピールした。
人になんて会いたくもないし、獣人とかは、すんごい会いたいけど、そんなことポロリとこぼすもんなら、もう一度勉強会がはじまりそうで嫌だ。
だってこの勉強会、言葉の壁もあるけど、先生をわざわざ王都から呼び寄せて一つ一つやっていくんだよ。
古い先生と新しい先生の派遣の合い間があくのは当たり前で、この世界の地図と国を覚える単純なのでさえ3か月くらいかかった。
ばかみたいでしょ。
こんな簡単なのエンちゃんたちが先生でいいじゃないねぇ、だけどそれはダメなんだってさ。
めんどくさいからその説明をしてくれようとするロウゼにはつい「わかった」といっちゃったよ。
危ない生き物や食べ物なんて、どう考えても必要ないんだけどなあ。
もうこれで終わりかと喜んだ私に、今までは基礎編だという何気に鬼畜なエンちゃんの言葉に、私はがっくりときた。
鬼、鬼がいる!
私は思わずへたれて、ヘたれた時こそお風呂にいこうと思いがっくししたまま部屋を出た。
だから私はエンちゃんやロウゼ達が、何やらアイコンタクトをとっているのを見逃していた。
それからも各国の通貨や物価の勉強なども私は頑張った。
「旅に出る」といってから半年、とうとう私は次もまた勉強が控えているというのを聞いて、もう一宿一飯の恩義もこれにて終わりと決め、なぜかいつも誰かしらそばにいるようになった過保護ぶりに悪いなぁと、ちょこっと思いつつ次の日の朝、勝手に旅立った。
ジョーカーの背に乗り黒いかっこいいマントにポシェット一つを持ち、まずは邪神の息吹をめざした。
「みんな~旅に出るよ~!」
「お留守番よろしく~!」
と声をかけると、その声に、「自分も旅~!」と幾つもの声があがり、ワサワサと翼を鳴らし飛びだってくる。
同じように凄いスピードで地を走る子らが、はしゃぎながらかけてくる。
地面がモコモコのたうつのは潜る子たち。
しょうがないなあ、みんな遊び好きだもんね。
よし!団体旅行って参加した事が元の世界では幼稚園のお泊り会一度きりの私だ。
この世界にくる時は眠っていたしね。
いいだろう、いいだろう。
初めての団体旅行としゃれこもうじゃないか。
ニシニシ楽しくて笑う私は、この大草原をまずつっきっていける所までいってみようと思った。
うん、地図の勉強意味なかったよね。
気ままに思うままに、この世界の探検としゃれこもうじゃない。
しばらく下を走る子たちに合わせてゆっくり飛んでいると、何とエンちゃんやロウゼたちが自分の騎竜に乗ってこちらにやってくるのが見えた。
私が手を振ると、手を振りかえしその手に持つバスケットを指さしてくる。
ん?私がなあに?とジェスチャーすると、ちらっとバスケットをあけて見せる。
あっ、おやつがいっぱい入ってる。
よし、休憩だ、休憩にしよう。
そのまま草原におりると、すぐさまエンちゃんたち黒マント組みも合流してきた。
何も言わずに出てきちゃったけど、やっぱエンちゃんたち凄いね、こんなにすぐ私に追いついてくるなんて。
まるでいつでもいいように準備していたみたい。
だって黒マント組みの装備はフルだし、騎竜にくくりつけられているのはどうみても荷物だよ。
一人二人なら間に合うかもしれないけど、黒マント組み全員だよ?
なんかよくわからないけど、そうゆうもんなのかなあ?
いそいそと私はおやつにありつき、エンちゃんたちはどこかに行くのか聞いてみた。
驚くことに帰ってきた答えは、私と一緒に旅に出る!だ。
え?だよね。
じゃ、あの勉強会いらないんじゃね?
そうぶつくさ文句を言う私にロウゼは初め「怒る所はそこですか?」といいながら、その後私を真剣にみつめながら「よろしくお願いします」と笑った。
急きょ人間達も増えた今回の旅だけど、ま、いいかと私は思った。
旅のスピードは落ちるけど、まあ急ぐ旅じゃないし。
「どこに行くんです?」
と聞かれたから、この草原をまっすぐいくのだと答えた。
すると彼らは顔を青くし、このまままっすぐは、彼らのグル―ノス帝国に向かう事になると答え、何とか方向を変えてくれと必死になった。
「え~、めんどくさい」と私が答えると、何やら何とか国の方角には、それはそれは素晴らしい場所があるとの事。
お風呂も凄いと聞き、私はもちろんそちらに向かって旅立つ事にした。
お風呂は正義!
ゆっくりとした速度にはなったが、頭が新しいお風呂で埋め尽くされ超ご機嫌な私。
空を地を地面を疾走するうちの子らも、私の機嫌の良さと、どんな新しい遊びが待ってるのかとワクワクしながら、時に共に走る仲間とじゃれ合いながら、まだ見ぬ地にと思いをはせた。
地を走る子らが通った痕や潜る子らが通った痕が、悲惨な事になっているのは、ご愛嬌で。
さあ、楽しい旅の始まりだ。




