第1章 第37話 なんか微妙
どうよ!これ!私は欲しいと願った黒いマントをエンちゃんからもらって、それを手ににやけていた。
ちゃんと私サイズで、しかも背中の刺繍はジョーカー、それも目の所とかきれいな宝石入りのかっこいいやつ。
こんな手の込んだのたったひと月くらいで作っちゃうなんて尊敬しちゃう。
「いい仕事しています」だ。
そういえばもうテレビも見れないんだなぁ、「すべらない」とか大好きだったんだけど。
今さらながら初めて考えたよ、違う世界にいるんだと。
ま、しょうがない、あそこでは一人だったけど、もう私は一人じゃないから大丈夫。
床のふかふかな敷物の上でマントを見ながらニヤニヤしつつゴロゴロ寝ころびながら、今日は良い日だ、そうだ!こんな日は露天風呂のはしごに出かけるのがベストだと立ち上がった。
そのまま着替えを持って外に出てジョーカーに乗せてもらっていつものように空に飛び立つ。
見慣れた空の上から下を見ると、更に大きくなりゆく町が見えた。
飛び立つ私に声を大きく上げて挨拶するのはハートの子ら。
本当にハート組みの子らはここが第2の巣状態だ。
兵隊さん達と遊ぶのが好きだからね。
私はいい子にしてんだよ、と声をかけ更に空の上に飛び立つ。
ジョーカーと私のその姿は、ここに住む人達には見慣れたものになり、手をひさしにして仕事の手を休めて見つめる人たちの中にも、緊張や恐怖は今はない。
ああ、そういえばここに住んでいる人たちも、いつのまにかエンちゃんたちの黒いマントまでかっこよくはないけど、濃いグレー、黒に近いようなその色のマントを身に着けるようになっていた。
やっぱりここでのはやりみたいだ。
マントがはやりなんて、渋いよね。
その黒に近いグレーのマントの後ろにはやはりうちの子らの刺繍がすその方に簡単にされている。
まあ、エンちゃんたちの黒のマントにはかっこよさではかなわないけど、なかなかなものだとは思うよ。
私は「邪神の息吹」にある一番のお気に入りの露店風呂の板のような岩の上で上手に片手を下にして、頭を押えながら横になりすぐそばにある大きな滝をながめつつ、ゆったりモード中。
ジョーカーたちはお風呂のそばにくると、私に引き込まれるものだから決して近づこうとしない。
だからここから見える山々やこの壮大な滝の景色も独占状態。
今度は仰向けになり耳は半分お湯につかっちゃうけど、ゆっくり木漏れ日の中青い空を流れる雲をうっとりとながめた。
ここ邪神の息吹はとても広い。
ちょこちょこ散歩がてら歩いているけど、まだまだ全ては歩ききれていない。
まるで原始の森のような場所や一度いった事のある上高地などのような場所がゴロゴロしてる。
私がおしかけたこの世界で目覚めてもうじき1年が立つ。
そのうち時間の概念もあまり意味をなさなくなるだろうけど、たまには真面目に考えてみるのもいい。
私が知ってるのは、ここ邪神の息吹と呼ばれる地域と、元の天幕があった場所の2つ。
生き物で知っているのは、あの憎たらしいスヌービンというミミズもどきと馬、それとエンちゃんたち。
ああ爽やか王子もいたっけ。
それとうちの子らが遊び倒して、生死は不明な巫女と若い女の人とおばさまもいた。
ちょっと凄いとも思うし、引きこもりに毛がはえた程度の気もする。
いやいや日本にいた時の希望は「引きこもって一生を過ごす事」だった私。
それを考えればやはりすごい進歩だ。
何ていったってエンちゃんたちとのコミュニケーションもばっちりだし。
他人と触れ合うなんて無理、と言ってた私はどこいった、だよね。
ちょっと妙な自信がムクムクと湧いてきた。
わけわからないやる気もムンムンだ。
思い立ったが吉日。
さっき、かっこいいマントももらったし。
私はお風呂を急いで出ると、またまたエンちゃんの元にまっしぐら。
マントくれ~!以来の突撃だったけど、今度はいる場所を知っているぶんすぐにたどりついた。
私は部屋で数人の人達と仕事をしているエンちゃんにドアを開け放ちざま言った。
「旅に出る」と。




