第1章 第36話 新しい始まり
あれから慌ただしく大勢でやってきた人達は帰っていった。
しかも徒歩で。
何でかというと、、ほら私がちょっとだけ怒っちゃったじゃない?あの時に。
やっぱりこっちの世界とはいえ、栄養的にカルシウムが足らないのかも。
キレやすい今時の日本の若者になっちゃってる自分にびっくりだよ。
私って日本人だったんだなぁってしみじみだよ。
今度ロウゼに聞いてみよう、カルシウム成分の食べ物について。
ああ、それで話しは戻るけど、あの時みんなやる気満々で集まってくれたでしょ?うちの子たち。
あのお姉さん、ジョーカーの巫女とか言ってたふざけたあの人をクイーン君が連れ去ったあの時。
みんなもその後を追いかけていったけど、その時ついでとばかりに、この人たちが乗ってきた馬とか騎獣とか、馬車ごと一緒にさらっていっちゃったんだよね。
うん、だけどエンちゃんたちのには誰もちょっかいはかけなかったよ、うちの子たちえらくない?
思わずそれを知った時、私が鼻息荒くえばっちゃたのは言うまでもない。
私同様、ちゃんと空気を読める子たちだよね、教えなくてもさ。
あの馬車みたいのが何台もあったでしょ?
あの中に若い女の人や世話係の人がいたらしいんだけど、それは仕方がないよね、乗ってたのが悪いという事で諦めてもらうしか。
馬車ごと運んでいっちゃうなんてねぇ、本当に遊び好きなんだよ、馬車を運んでいったハート組みの子たちは。
それで2~3日は巫女と運んでいった人達と遊んでいたみたい。
楽しそうだったから良かったよ、せっかく連れていったのに遊べなきゃね。
それで、乗り物がなくなっちゃったあの人達は徒歩で帰るしかないの。
なんか護衛もなし。
ロウゼに「何で?」って聞いたら鼻で笑ってた。
うん、鼻で・・・・。
あの王子に負けないくらいキラキラしいのに。
あれから変わったといえばロウゼもだけど、エンちゃんたちもそう。
みんな10月君や3月君に治療をうけた、私を最初にここに連れてきてくれたアルのグループの人達が中心なんだけど、なんか強くなったというか、ふてぶてしくなったというか・・・。
荷物もきた時と違ってほとんど持たずに王都とやらまであの人達は無事帰れるんだろうか?
なんかあれだけえばってた雰囲気の人達が帰るときは、なんかドナドナで売られていくみたいなしおれた感じ。
見送りもほとんどなくここから帰っていった。
帰る間際まで、なんかエンちゃんに泣きそうな顔して代表みたいな男の人が何か頼んでいるっぽかったけど、すんごく冷たく無視されて、追い出される感じでここから出て行った。
それとあのキラキラ王子様はいつの間にかいなかった。
どうしたのかわざわざエンちゃん達に聞きもしないけどさ。
心配なのはただ一つ、誰かがパクって食べちゃった事。
別にいいけどさ、エンちゃん、あの王子に跪いていたから、ちょっとは悪いかもって思うわけ。
ジョーカーに誰かが食べちゃった?って聞いたけど誰も知らないって。
私的には厄介な匂いのぷんぷんするやつが何はともあれいなくなって嬉しいかぎりだけど。
ああ、でもあの王子ときた10人くらいの人が残ってるみたい。
この人達とエンちゃんは普通みたいで一度私の所に挨拶にきた。
それとあの邪神の巫女の出来事のせいで、私は邪神という言葉に敏感になってしまい、私達がいたあの場所が「邪神の息吹」と呼ばれているのも覚えたよ。
凄くない?どんどん賢くなってるよ。
私とジョーカーは相変わらずプラッとお風呂に出かけているし、2~3日帰らない時もある。
帰らない時はたいてい探索にでかけているの。
ダイヤちゃんの産んだ子供達とか他にも子供達が増えてきていて、ほら弱肉強食当たり前だから、私も手を出さないんだけど気になることは気になるから、その様子を見ていたりする。
最初にここに一緒にきた子らはお互い死ぬまでやりあう事はないんだけど、その生まれた子供達は別みたい。
それと私がちょっといない間にクローバーの子らが地形を変えて遊んでいたりするの。
お気に入りの露天風呂の一つを壊された時は、さすがにこの私も怒り、それはもうしっかりとジョーカーにおしおきを頼みましたよ。
露天風呂以外楽しみがないというのも何かあれだけど、私お風呂に命かけてるとこあるからね。
クローバーの子らの幾つかはジョーカーに尻尾や手足をかじられながら、ピーピー泣いて私にSОSを送ってきましたけど、その時ばかりは無視しました。
やっていいことと悪い事のしつけは大事ですから。
それでまたクローバーの子のスキル、治療が格段とパワーアップした。
そうやってフラフラ過ごしているうちに、あの天幕群が徐々になくなり、しっかりした木や石組みの家に取り換えられていた。
もう本当にここ「町」にしか見えないね。
あの巫女騒ぎからわずか数か月で、またまたここは様相を変えてしまった。
すごいよね、このパワー、どうしてなんだろう?
それで私とジョーカーも大きな石組みの家を一つもらって今は住んでいる。
私って律儀な事なかれ主義の日本人なもんだから、あれ?あれれ?とは思いもしても、まっ、いいか!って感じに流されてここにいる。
私とジョーカーの住む周りにはエンちゃんやロウゼたちが住む建物が立っていて、相変わらず訓練という遊びにうちの子らは「邪神の息吹」からやってくる。
で、ある日私は気がついた。
エンちゃんたち、子蛇ちゃん救助隊のみんなが前は銀色のお揃いの鎧を着ていたんだけど、いつの間にかそれが黒いものにかわっていて、その上に同じく黒いかっこいいマントをはおっていることに。
そのマントにはうちの子らの一人一人がそれぞれの背中に見事に刺繍されていて、よくみればその姿は訓練の相方の姿が精密に刺繍されていた。
あれから、同じくペアを組んでここの兵士さんたちと訓練ごっこを楽しむ子らが増えたからね。
白い指や手の平になっちゃった子蛇~ズ救助隊の人達と組むのがね、マイブームらしい。
それで何となくわかった。
黒い鎧と刺繍入りマントはエンちゃんたちだけだった。
「子蛇救助隊」の手指変色組だけの制服。
何でだか理由はわからないけど、あのマントかっこいいの!
ここ半年くらいボケ~っと過ごしていたせいで、私乗り遅れちゃった気分。
だから気がついたからには、私はいそいそとエンちゃんに会いにいった。
基本、エンちゃんやロウゼ達が私の所にやってくるから、自分から行くことはなかったんだ。
前の天幕の時は夕飯とかエンちゃんの天幕でとっていたけど、石造りの家にかわってからはない。
本当に忙しそうで、時たま時間が会えば、私の所で一緒に食べるから。
エンちゃんの住むとこは、いつも誰かしら大勢いる気配がするからあまり好きじゃないんだけど、背に腹は代えられない。
私が奥から、私の住んでいる所は相変わらず一番奥で、そんでもって一番大きいの。
ロウゼたちがそこを「奥殿」と難しい言葉でいってるんだけど、私は「奥」だけわかったから「奥」って呼んでいる。
その「奥」から一番近い建物のエンちゃんのとこにジョーカーを腕に抱いてはじめて訪ねた。
入口にいる警備の人達は、知らない人たちだった。
エンちゃんが前に王都から兵隊さんたちが、えっといろいろな所の兵隊さんたちが沢山勉強の為にここにくるって言ってた。
シリ―が「良い人」とか「選ぶ」とか言ってたから、日本でいえばエリートの研修生?でいいのかな。
だからそんな人も増えているらしいとは聞いていたけど、実際見るこの人達、私が奥からきたのを見て信じられない!って顔をして硬直してる。
私は「ラジャ」っていってそこの前を通った。
うん、何も言われないどころか固まったままだったよ。
本当にこの国大丈夫なの?あれでいわゆるエリートさんなわけでしょ?
まぁ、あの変な王子が次期トップになる国だもんねぇ、私はかわいそうなものを見る視線だったよ、彼らを見る時に。
私がエンちゃんを探してなかなかに大きな建物をうろうろしてると、え?部屋と言う部屋開けていっただけだよ、次々に。
「エンちゃ~ん」って言って。
だって私どこにエンちゃんいるか知らないし、ジョーカーに聞けばわかるかもだけど別に急いでいないしね。
だけどねぇ部屋を開ける度に、その部屋にいる人たちがそれまでやっていた仕事みたいなの放りだして硬直するんだよ。
で、いないから次の部屋にいく。
これを繰り返しすこと3回ほど。
やっと上の階の部屋に顔見知りの人たちがいた。
アルの部下の人達だ。
私が「ラジャ」といって笑うと笑い返してくれる。
これだよ、これ!
やっとまともな人達に会えたよ。
私が「エンちゃんどこ?」と言えば、わかったのか、私を案内してくれる彼ら。
そうか、最初から黒マント組を探せばよかったんだね。
やっと会えるとその部屋から出ると、先ほど訪ねた部屋の皆さんが部屋の前の廊下に大勢いたりする。
うん、面白いから放っておいたんだけどね、私。
部屋を開けるたびそこにいた人達が硬直、で、その後次の部屋を訪れてそこを出る頃には、その部屋の前の廊下には先ほどの部屋の人達がいる。
そうして少しばかり距離をおきながら、そのままぞろぞろと私の後についてくるの。
なんか蟻の行列みたい。
ちなみに私が砂糖ね。
クフクフ笑いたいのを耐えて、大の大人の男の人や少ないけど女の人たちが、大口あけて硬直したあと、今度はおどおどとしながらも目を大きく輝かせながら後をついてくるのがおかしくておかしくて、やっぱ笑っちゃダメだよね。
やっとエンちゃんのいるとこについた私は、ロウゼと後は年配のおじさん達が何かお話しをしている中知らんふりしてお邪魔しました。
私の方が大事な大事なお話しがあるんだからね!
突然きた私に驚いたみたいだけど、エンちゃんもロウゼも喜んでくれた。
そして年配のおじさん達をロウゼから紹介されたけど、綺麗に流したよ。
だってあの王子の名前が紹介と共にちらっと聞こえたから。
そういえばこの人たち、あの王子の近くに大人しくいた人かもしれない。
あの時は王子の取り巻きのほとんどが、凄いむかつく態度をしてくれたけど、静かにいた人たちもいたんだ。
この人は静か組の人ね、だけどあの王子厄介そうだから、無視させてもらおう、そう決めた。
私は黒マントを羽織ってますます強面に磨きをかけたエンちゃんに、早速おねだりをした。
「私にもこの黒マント欲しい」って、これ大事。
何でかそれを聞いて驚愕するエンちゃんたち。
その後、何度も確認された。
私だってその恰好いいの着たいの。
だから私は欲しいとちゃんとまた答えた。
私この世界の言葉で最初に覚えたの「欲しい」だもん。
完璧に言えたはず。
それでも何度も私にそれを確かめたエンちゃんは私の本気を知ると、ぎゅっと天井を仰ぎ、やがて静かにその目から涙をこぼしはじめた。
え?何で?何で泣くわけ?私なんかした?
こんな時はロウゼに助けを求めようとロウゼを見ると、つかつかとロウゼはエンちゃんのそばに歩み寄った。
そうしてロウゼはエンちゃんの肩を何度も叩きながら、これまた同じように泣いていた。
「うっうっ~」と嗚咽の声が幾つも聞こえた。
何事?と振り向くと、他の黒マント組、エンちゃんの部下の人達が目に腕をあてて唇をかみしめながら泣いていた。
何?何?何よ!黒マントって、そんな泣くほど高いの?
腕の中のジョーカーと目を合わせ、これって私が悪いの?と、そう途方にくれた私だった。




