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第1章 第32話  頼むから

ロウゼ視点①


本当は一気に書こうと思ってたんですが、お誘いがあり出かける事に。

キリがよいとこで終わりにしちゃいます。

 名前も未だわからない子供と邪神は、少しずつ、ありがたい事に、この警戒のための天幕、通称「息吹の草原」で暮らすのに慣れてきていた。


 この帝国、ひいてはこの世界の為に、我々妖精族をはじめ魔術師連中は、必死に意志の疎通の為に、子供と少女のあわいにいるような不思議な雰囲気の彼女の言葉を必死に覚えていた。


 いまだ失礼に当たってはならないので、彼女の名前を聞くことはできない。


 しかし反対に最初の関門である私達の名前は何とか知ってもらえた。


 あのスヌービンの時の失敗は、あの陽気で素直なミネロスの若い命が散ったさまを決して無駄にしてはならない、との思いが意志の疎通を最優先課題にさせた。


 あんなふざけた死に方をするものは二度と出さないために。


 少しずつ我々に慣れていって欲しい、これほど切実に物事を願った事は、私の今までの人生ではなかった。


 妖精族の里を成人と共に飛び出た時も、エンブスとめぐり合って、人間族と共に生きようと決めた時も、これほどの思いはなかった。


 そうしてそんな切実な我々の願いは理想的にかなえられたかにみえた。


 少女なくしても、「邪神の息吹」の最高ランクといえる妖獣たちは我々との訓練に参加するようにまでなったのだから。


 まだまだ細いが信頼という糸がつながった、そう思った。


 我々は歓喜のうちに、都に住まう我らが聖王アイロン様と皇太子であるレアル殿下に、その訓練の様子をご照覧頂いた。


 その後、アイロン様からの伝達鳥によるお褒めの言葉をエンブス大隊長が代表して賜り、その映像を共に見た重鎮の方々も喜びの声をあげた、と聞いた。


 都では祝宴が3日ほど続いたらしい。


 ところがここで思わぬ事態が持ち上がった。


 これほどならば、都の貴人が赴いて、直接それを目にしてもかまわぬだろうと。





 望むとも望まぬともの意見すら聞かれることなく、こうしてレアル殿下じきじきにこの「息吹の草原」に視察にいらっっしゃると聞いて、我らは急ぎお迎えをする準備にあけくれた。


 そして、王都では風の便りに、というか、ある筋から、あの訓練の様子を見た三大貴族の内のエファラン公爵の勢力が勢いづいていると聞いた。


 なるほど、あの我々と最高ランクの妖獣との訓練のさまを見て、都合の良いように解釈したか・・・。


 なぜならエファラン大公の娘の一人が、あの「邪神の巫女」として、神殿でも特異な地位についているからだ。


 あの時「邪神のお告げ」を聞いたものは数多いた。


 それぞれを集めて聞いてまとめあげたものが、世に言う「邪神のお告げ」だ。


 それをまとめて報告書の形で出そうとしたのに、ストップをかけたのが、この問題のエファラン大公だった。


 自分の末の娘がより多くの神託を頂いた、我が娘がアイロン王に献上すべきと言いだした。


 神託を受けた領地のもの数人から、その神託を聞き、それを娘が受けたと言っているのは、蛇の道は蛇、ある程度の位置にいるものは、その事を知っていた。


 本来ならそれは一笑にして終わらせてもいいものだった。


 それがかの大公の願い通りになったのは、大公の一の姫が側妃としてレアル殿下の弟であらせられるミルス王子に嫁いでいるためだった。


 ミルス王子の母君は大公一族の出身であり寵を失って久しいが、正妃が母であるレアル殿下にことごとく対抗をする姿勢をこれまでも見せてきた。


 それが許されていたのは、ひとえに継承権第二位のミルス王子のご生母だからだ。


 それと正妃様が争いを厭う性質であるのも大きい。


 またこれまでの事は、それほど大きいものでなかったせいもある。


 夜会に着る衣装とか、本当にある意味どうでもよい事ばかりだったせいもある。


 ミルス王子は、とてもお優しい性質の方で、そんな母君に何も言えないお方だ。


 レアル殿下に申し訳なさそうに謝るのはしょっちゅうで、そんな弟君に気にすることはないとおっしゃられるお二人は、王室でも中の良い兄弟として温かく見られている。


 それが、これほどの妖獣が、軍の一部とはいえ、手なづけられていると見るや、一気に「邪神の巫女」としての立場を表に出し、堂々と一気に表に名乗りをあげてきた。


 今まで「邪神の巫女」になど、それほどの価値はなかったというのに、もしや邪神を操れると思うやいなや、声高にその立場を表明しはじめた。


 その目先の力に、親娘ともども溺れ、それに追従する輩が出てきた。


 たかだか数か月で、だ。


 それだけ邪神や妖獣は、この世界にとって無視できぬ大きなものなのだ。


 実際、宮廷魔術師長という肩書きを持ち、つけいる隙もないレアル殿下より、ミルス王子の方が御しやすいのは明白で、この大陸を実質支配にいたった帝国の後継をミルス王子にと、そういった動きも連動して活発になっているらしい。


 今の帝国内の権力の比重はある意味混乱の極みにあるといっていい。


 もちろん我らが聖王アイロン様がいる限り、それらは表だって出る事はない。


 だからこそ厄介で、そんな中でのご訪問に、エンブス大隊長もピリピリしているのを感じる。


 最悪な事に、その一行に大公とその取り巻き、娘の「邪神の巫女」までここにくるというのだ。


 レアル殿下の勢力は三分の一もつれてこず、ほとんどがミルス王子のものばかりを連れてくる。


 あのレアル殿下、いつもひょうひょうとした態度を崩さず、いつもお召しになる白いローブのごとく掴みどころがない殿下が何かをお考えになっての人選なのか。


 それとも都では実質それだけ大公側の力が増していて押し切られたのか・・・。


 我々「息吹の草原」側は何にしても、慎重に事を穏便にすますのが一番の目的と話し合った。


 やっと、やっとだ、何とか少女と邪神と何とか距離を近づけたばかりなのだ。


 頼むから、何を頼むのかもわからないが、私はラオナ神に、初めて祈った。


 人間族の神であるなら何とかしてくれと。


 そうして、レアル殿下一行が「息吹の草原」にやってきた。





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