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第1章 第3話  邂逅

 ひどい頭痛とぐるぐる回る気持ち悪さで、私はうめきながら目を開けた。


 目を開けるにもひどい思いをしながら、唇をかみしめつつ、しっかりと目をあけた。


 そこは真の闇、そうとしか言えない場所だった。


 横たわる自分の体の下には、確かな感触、ひどい冷たい床のような感触があるが、恐る恐る触ってみても、それがはたして床であるのかも、心もとないものだった。


 1つゆっくり吐き気をこらえて息をする。


 もう一度ゆっくり息をして、横たわったまま私は繰り返し息をする。


 何とか吐き気がおさまるのを待って、ゆっくり身をおこす。


 思わずまた襲う強烈なめまいに、私はまた強く目をつぶる。


 自分の指先さえも見えない闇に驚きつつ、何がおこったのか考えてみる。


 夢?まさかこの痛みが夢であるはずがない。


 誘拐?うちはお金がない、ああ、だけど変質者ならありかも。


 そうか、私は変質者に拉致された、そう考えるのが妥当だろう。


 この期に及んで、まだ冷静に考えられる自分に自信を持つ。


 大丈夫だ、パニックになってない。


 ここの広さは?声は届く?


 そう頭痛をおして考える私に届いたのは、まぎれもないあの鳴き声だった。


 一瞬、何事かと茫然とし、しばらくそれが本当にあの鳴き声だとわかると、それが本当の現実で目の前にある事だと理解すると、同時に私は硬直したかのように、そこから動けなくなった。


 え、え、え?


 どのくらいそうしていただろう。


 私は自分を怖がりではないと思っていたが、自分の唇が震えているのも、体が震えているのも、目が見開かれたままであるのも、そうして自分が泣いているのも、自分の頬を流れる涙の冷たさではじめて知った。


 その頬を流れる冷たさで、少し冷静さを取り戻し、それと同時に、また耳が正常に機能し、あの鳴き声をしっかりととらえた。


 鳴き声に自然と耳を澄ませれば、その悲哀じみた鳴き声が一段と高まり聞こえる。


 変質者の線は消えたな・・・・。


 現実逃避なのか、わけのわからない状況に、ただ普通でない事が自分の身におきている事だけ認識した。


 そして、そう、今わかった。


 すんなりとそれは私の中におさまった。


 落ち着いて繰り返しその鳴き声に耳をそばだてていると、その声の意味がわかった。


 あれは、私を呼んで求めてずっと哭いていた声だと。


「今いくよ。」


 私は闇の中、赤ちゃんのようにハイハイしながら、手探りで私を呼ぶ声の方に向かった。



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