第1章 第20話 相棒
活動報告にも書きましたが、やっと復帰しました。
隊長さん視点です。
俺達はすぐにその子供を救出した。
すぐさまロキロキ草を退治しようとしたが、思いもかけなかった事がおこった。
遠くに見える「邪神の息吹」から、咆哮がここまで届いた。
それに呼応するように、かすかに風に乗って聞こえる幾つもの咆哮。
「邪神の息吹」から妖獣の気配がこうもあらわれるは、奴らがきてからの3年いまだなかったはずだ。
そんな報告は一度も出ていない。
勿論、禁足地の意味を知ってなお、俺達に隠れていくバカな賞金稼ぎなどは別だが。
そのボロをまとった子供を俺は抱え、大丈夫だよ、となるべく怖がらせないように声をかけるが、その小さな子は無邪気な目をきょとん、として俺を見る。
くそっ!口が聞けないのか、何にしても今すべきは迅速な撤退だ。
ロキロキ草の脅威など問題にならない。
俺の相棒である騎竜に子供を抱え乗り込み一目散に走り出す。
まだそれほど走り出さぬ内から、魔導師のシリーから大きな警告の声が上がる。
お前らが気付くより先に、俺達は背後からあふれくる鬼気に、とうに気が付いている、バカか!
だからこそ無駄口をせず、その貴重な逃げるための時間に回しているのに。
舌打ちをこらえ、胸に抱える子供がこのスピードに耐えられるか、心配になり目をチラとやる。
珍しい暗い色をした目の色を持つ子供は、俺に普通に視線を合わせてきた。
大丈夫なようだ。
せめてあの拠点となる天幕までいけばまだ全員助かる方法がある。
更にスピードを上げるべく走る俺の目の前の地面が土を大きくまき散らしながら急に盛り上がった。
俺は咄嗟にとまり、その為に跳ね上がり落ちそうになった子供をおさえた。
このスピードで落ちれば只ではすまないし、いや落ちる事ができる前に、この目の前の奴にやられておしまいか。
何はともあれ、俺は今日はどんな厄日かと顔を覆いたくなった。
もし万が一にも助かる事があるならば、休みのたびに花街に通う事はせず、そのうちの1回くらい神殿に祈りを捧げてもいい、と真剣に思いながら、俺はこの小隊長として出来うる最善の事をすべく、この突如地面からあらわれた忌々しいスヌービンを睨みつけた。
数年に一度の繁殖以外、こうして人目につくことは珍しい、というかスヌービンに遭遇するという事は、よほどの人数でもいない限り普通の人間は生き残る事はできないので、そのため目撃情報がないともいえる。
それは決して人数が多いと戦えるという事ではなく、大勢いる中で、誰かが喰われている間に運よく逃げ出す事ができれば、の限定でだ。
こいつらはその体の表面にある強力な粘膜で、刃も通さない。
唯一の弱点の目を補う鋭い嗅覚でエモノは逃がさない。
その目も時間と共に陽光の下でも目があき働くようになればアウト。
この大陸最強説をとなえる学者もいるくらいだ。
それが、きっとあの鬼気せまる気配に刺激され、こうして季節外れのおでましだ。
まったくあの妖獣ども!その存在だけでも凶悪なのに、おまけまで、とは。
俺が何をしたっていうんだ、俺はボコッボコッと出てくるスヌービンを横目に心の中で悪態をついて、部隊の体勢を何とか整える。
運がいい事に、ここには魔導師がいる。
喰いもんも・・・・ある。
俺は子供を魔導師に預け、匂いを少しでも拡散させつつ円を組みながら流し、その合間に結界用の補助具をばらまいていく。
これ一つでいくらするかなど考えまい。
生き残って報告書が作成できれば、だが。
タイミングを見て飛び降り、即、結界だ。
手塩にかけ育てた相棒は、まるで自分の役目を知っているかのように、どんな時も忠実だ。
お前達が本能のまま逃げれば助かるだろうに。
俺は相棒の首を叩き飛び降りた。
結界が即座に組まれたそこからは、忠実に命令を守る俺達の相棒が襲われるのが見えた。
俺が言わなくても部下達は唇をかみしめながら、しっかりと相棒たちをみすえる。
目をそらすことなどしない。
このままこの結界とあいつらとの根競べになるが、たぶん大丈夫だろう。
そう思った時、ありえない事がおこった。
あの子供がひょい、と動き、結界に触れたか触れないかの、その瞬間、結界が崩れた。
長時間持つはずの、補助具もこれでもか、と使った結界が・・・消えた。




