第1章 第2話 知らない世界へ
さくさく書いていきます。
早速のお気に入りありがとうございます。
今まで、こんなに煩雑に「泣き声」が聞こえる事がなかったのに、ここにきて昼にも、私の耳にはその哀しげな声が聞こえるようになった。
まるでテレビの2重音声や同時通訳みたいになっている。
さすがに、自分にしか聞こえない声っていうのは、もしかして、と思った事もある。
けれど自分の体の事でさえ、まるで他人事のように思う私はそれを長年放っておいた。
別に精神が病んでいたって、それほど困る事態ではないし、と。
そんな私もさすがに、これはまずいかもと思い、学校の帰りに図書館により、精神医学の本をむさぼるように読んだ。
どの症例もあてはまるようで、あてはまらない。
何ていい加減なんだ!どうにでもとれる曖昧な医学だとは思わなかった。
両手を頭の後ろに掲げて、少し後ろに椅子を使って伸びをする。
さすがにこれだけ集中して読むと疲れる。
もちろん、それは2重音声状態も原因ではあるが。
今や殆ど耳元ではっきり泣かれているように聞こえる。
まずいなぁ、こんな事言えば、嬉々として両親が喜ぶだろう。
自分たちにはこんな娘を育てた落ち度はないと。
それはそれでどうでもいいと思いつつ、何故か考えるとむかついてくる。
耳元で聞こえるその声は、人の泣き声というよりも動物の鳴き声に近いものじゃないかと想像する。
聞こえるそれはあまりにリアルで、耳元にその息づかいまで感じるほどだ。
いやいや、自分、さすがにこれはまずいだろう。
私は人生初、途方にくれていたが、帰り道のウィンドウに写る私は、普段通りの無表情の私だった。
この顔で理由も言わず、たった一言だけ「困った。」と言ったら両親はどう反応するだろう、そう考えたらちょっと笑ってしまった。
こんな風に考えるから、うまくいかないんだよなぁ、かわいくないよなぁ、と私は思った。
この自分の事でさえ、突き放してしまう自分は、確かに父の言うような欠陥商品なんだな、といらぬ所で実感してしまった。
暗い街灯の下、もう少しで我が家が見えるその時、ひときわ哀しい鳴き声に思わず足を止めてしまった。
それはもう私の体を揺さぶるほどの鳴き声だった。
「揺さぶる?」
私は自分の制服が、髪が、なびくように動くのを、きょとんとして眺めた。
現実に生暖かい風も感じるような気がする。
え?うそ?何?そう思った瞬間、私はこの世界から消えていた。