第1章 第18話 それとこれ
低い声が聞こえた。
それは静かに涙するリーダーさんの隣にいる人のむせび泣く声だった。
それがやがていくつも聞こえてきた。
私はそんな彼らをじっと見ていた。
ボロボロと大きな体を震わせて嘆く彼ら。
さっきのミミズもどきにやられるのと、ジョーカーにやられるのと、どう違うんだろう?
こんなに嘆くのは、あのローブの人が死んじゃったからだよね。
だけど、あのローブの人がやられなければ、私がやられていたってわけだよね、どうみても。
ムムム・・・。
この人達は、じゃあ私の敵ってこと?
私を傷つけるのを認めた人たちだもの。
私は、近寄ろうとしていたのを止めて、彼らに背を向けないように、彼らが何をしても対処できるように、慎重に、ゆっくりと彼らの様子をうかがいながら、一歩ずつ離れていった。
私のその敵意に、ジョーカーが反応し、その体をより強く変化させていく。
その爪先からは、毒が滴り落ち鱗の一つ一つがより強靭な槍の先のように伸びていく。
口から滴り落ちる酸は、その色を更に深く濃く、落ちるそばから、地面に大きな腐食の穴をあけていく。
驚いた事に、ハートの一族の子らも、唸り声をあげ、体の色を更に濃くし、その牙や尾を、爪を大きく伸ばしていった。
そして前足で地面をひっかきながら、地面に大きな穴をえぐりつつ、低く唸り声をあげ飛び掛かる体勢を見せていた。
さすがに同僚の死を嘆いていた彼らも、雰囲気が一気に悪化した事を感じ、それと共に、「ジェスチャーは異世界の友」ばりに、ヘラヘラしていた私が、彼らを警戒して徐々に下がるのを見て、何事か口々に、声はかすれていたけど、私に話しかけてきた。
私は首をフルフルと振り、彼らを拒絶した、当たり前。
リアルもぐら叩きをやっていたチームが戻る足音が聞こえ、空には一足さきに翼あるもの達が戻り頭上に舞いはじめ大きな咆哮をあげている。
一触即発の状態に、もちろん一方的に村人Aさん達が殺戮されて終わるはずのその時、ちょうどその時、その場を破るようにかすかな鳴き声が聞こえてきた。
「ナァ」と繰り返し聞こえるそれに、私は耳を澄ませた。
威嚇の声やうなり声がうるさくて聞こえずらい。
私はジョーカーたちに静かにするよう頼み、空に舞う彼らにも大人しくして、と頼んだ。
一気に静まりゆき、元の姿に戻る彼らをみながら、もう一度耳をすます。
それは、私達に囲まれている人間達の輪の中から聞こえてきた。
もしかして、と思った私は駆け足で彼らの元に向かった。
ジョーカーが威嚇の声を上げるのに振り向いて「ダメっ!静かに。」と言いながら。
私がそばによると、あわてるように避けていく彼らを無視して、私は灰色のローブの人の所までいった。
聞こえる、再び「ナァ」と、この人から。
私があまりにもワクワクしている様子を隠さないものだから、最初は緊張のあまりひどく固い顔だったその人も、私の期待に満ちた目を見て、その後リーダーらしきあの男の顔を見て、何やらうなずいて、おもむろにゆっくりと、敵意をない事を示しながら、その懐を広げた。
その懐には、私の手の平にのるくらいの、小さな白と茶まじりの仔猫がいた。
うん、どうみても猫だ、そう見える。
私はまたもやローブの彼にキラキラした目で訴えた。
彼がうなずきながら、そっと差し出された仔猫に優しく触れる。
ニコニコする私に彼もぎこちなく笑いながら、その仔猫を抱かせてくれた。
可愛い、私はすっかりそれまでの事を忘れてしまった。
ジョーカーがブツブツ文句を言っているが無視。
他の子もいじけてしょんぼりしているけど、同じく無視。
この世界にきてまだ2か月?くらいだけど、ここでは自由気ままをモットーに生きていくの。
っていうことで、私は誰もかれも無視して、1人仔猫と遊んだ。




