第1章 第14話 そんな怒らなくとも
「ジョーカーさんや、ホラ,私は大丈夫だよ。」って思念を懸命に送る。
私も含めて、この皆さんの為にも。
「痛い?苦しい?すぐにいく」
すぐに返ってきた答えに、怒りのあまりに、肝心の私は大丈夫ってのは聞いてないな、って、またまた遠い目になった。
何かこの世界にきて、はぁ~っていうのが増えていないだろうか?私。
また大きく聞こえてきたジョーカーの咆哮と共に背後にとてつもない気配を急激に感じる。
能力を最大限にあげているみたいだ。
私も振り返りたいのがやまやまなれど、急に乗っていた竜もどきが立ち止まった原因が何せ目の前にあるのだ。
本当に・・・・・何これ?。
灰色のアナコンダくらいの大きさの、どう贔屓目にみても大蛇なんかじゃないですよ~、ミミズです!、みたいなウネウネする生き物が次々と地中からぬぼっと姿を私達一行の前に突然あらわした。
体に似合わないかわいい瞳を、よく、つぶらな瞳というけれど、・・・・うん、ちっさなその瞳がこれほど凶暴なものなのかと、初めて知りました。
この乙女の顔に傷がついたらどうするのよ!、いやそもそも、乙女のパンツ一枚のあらわな姿をさらそうとしたこれが元凶か!と、ギッと睨みつけてやる。
迫力がないどころか、リーダーさんの背におもいきし逃げて、これ以上のけぞれないぞ、って感じになりつつやってるけど。
しょうがないよね!だってさぁ、いやいや、ないだろ、これは!って感じの生き物だもの。
「ここはどこだっ!」つーの。
あっ、いいのかここ異世界だ。
自分にしっかり突っ込みを入れながら、ボコ、ボコっとあらわれるそれらに、私達は後ずさり、何とか囲まれないように、逃げようとした。
けれど、その大きなミミズもどきが次々とあらわれ、その体の上半分をユラユラ揺らしながら、私達をとり囲んでいく。
クワっと、境目がわからなかったそこが、真っ二つに横に裂け、えっ、何の冗談?ぐらいの大きなサメの歯みたいなのが何列も見える。
うん、・・・・・私は毒は平気みたいだ。
あのよだれ、何でも溶かしそうな、あれもまた平気だった。
けれど、あのサメの歯みたいのにカジカジされたらどうなるんだろう?
絶対試したくなんかない、無理、無理、「百聞は一見にしかず」とか、「頭より体で感じる経験こそ大事だ」とか、昔から私とは相いれない言葉たちだ。
蛇、蛇ならまだいい、それなりの美しさがあれにはあるし、ジョーカーの尻尾の可愛さったらない。
は?ミミズ?それ、何?ごめんなさい!だ。
「縁の下の力持ち」として、崇め奉るから、一生地表には出てくんな!って感じ。
可愛いあの子たちの誰にも、私は傷つくことはないとわかっているけど、こいつはどうみてもこの世界の生き物だ、この人達の対応が知識として知っているそれだもの。
なんでこんなのがいるのよ?聞いてないよ!夢と魔法の世界じゃないの、ここ。
勝手にこの世界におしかけた私達のことを棚に上げて、私はこの気色の悪い生き物に罵詈雑言を心の中で浴びせ続けていた。
この生き物に次々と取り囲まれる中も、リーダーは冷静に何か指示をだし続けている。
私をローブの人間に受け渡して、私とそのローブ組の3人を真ん中にして、円を二重にするような隊形になり、やがて静かにグルグルその円を回りだす動きになった。
ローブの人間が何か詠唱をはじめる。
何か淡い光が、グルグルと円のように回る隊の人達にふりそそいでいく。
おっ!なんかやる気だ!待ってたよぉ~、お約束だよね。
魔法でド~ン!ってやっちゃって、どーぞ、やっちゃって!
私は期待して、はじめて見る魔法をワクワクと見る。
灰色の化け物ミミズもどきは、グネグネと前後左右に揺れながら、やがて体表を震わせてその色を濃く黒く変えた。
その瞬間、あのちっさな瞳がパカッとあいた。
えっ、あれって、今まではあいてなかったんだ?
えっ?あいてもそれって、・・・そう大きさ変わんないよね、ここまで引っ張る必要あったの?
あっ、目が会った気がする・・・すいません、もう馬鹿にしませんから!そのクワっと更にパカッと開いた大きな口を私に向けないでよ。
その目があいた瞬間、その体をひねらすように、体を地表に全てだし、それらは攻撃をしはじめた。
外周を描いて回っていた人間が、そのタイミングを待っていたかのように、馬もどきから飛び降り、円の中心に走ってくる。
えっ、逃げるんだ?・・・攻撃しないんだ・・・。
私のさっきの期待はどうしてくれるのさ、というか・・・・くるくる回る必要あったの?
私がこちらに戻る彼らを見ていると、あの光がスルスルと立ち上がり、彼らを全て囲い込み、光の膜が私達を包んでいく。
おおっ、なんだかわからないけど、おお!魔法だ!
残された馬もどきが、そのたくましい足を蹴りながら戦うも、一匹だけならまだしも、数匹に襲われれば、もうそれは一方的な食事タイムだ。
リーダーたちが、どこかに逃げるための突破口がないか探しているのが、言葉はわからないが雰囲気で伝わる。
彼らを邪魔をしないように見ると、その手を握り締め、兜から出ている唇を噛みしめ中には噛み切って血を流しつつ、馬たちをみている人間がいた。
名前をぽつりとつぶやいている人もいる。
ああ、彼らには、あの馬もどきは仲間でもあったのか。
その時、この世界の人たちも、ちゃんと生きている人達なんだ、とすんなり胸におちた。
それと同時に、何だ、ここも弱肉強食かぁ、と思った。




