第1章 第1話 疲れる日々
私は、親から「何を考えてるのかわからない子」と言われてきた。
私の家は、それほどお金に余裕のない家で、よくお金の事で両親は喧嘩していた。
私はただ、その争う声を聞きたくなかった、ただそれだけだった。
そして、後から生まれた弟は、そんな私と反対で、感情を綺麗にだせる子に育った。
私だって初めの頃は、両親の喧嘩を止めたくて必死に声をかけていた。
喧嘩をやめてと泣きながら何度頼んだことだろう。
けれど、気が高ぶる両親が、ともに、そんな私に向けてくるのは、更にくすぶる怒りだけだった。
だから喧嘩がはじまると、耳をふさぎ、目をつぶり、我慢して、そうしていつの間にか感情を殺す子供になっていた。
私が小学校に上がるころ、父はやっと落ち着ける職を得て、母もまたパートに出て、暮らし向きが落ち着いた。
もう、お金の事で喧嘩をする事はなくなった。
それと同じくして弟が生まれ、あの頃の母は何だったのかと思うほど、私から見ても美しい穏やかな人になっていった。
それほど贅沢をしなければ、普通に暮らせる生活は、両親を落ち着かせ、その愛情の元、弟は素直にすくすくと育っていった。
安定した愛情を一身に受けて、ただ私だけを置き去りにして家族が出来上がっていた。
今思えば、私も悪かったんだとわかる。
必要以上に口もきこうとせず、全て自己完結してしまう。
そんな子供、私だってお手上げだろうと思うから。
小さい頃から、ただ一つの楽しみは、読書だった。
学校や公共の図書館、本屋さんめぐり、家で寝る以外は、時間の殆どをそうしてつぶしていた。
高校に入ると、周りは部活やバイトとかに動いていたけど、とんでもない!私は知らない人間たちと接するのが嫌で、その全てから逃げていた。
少ない友人の一人が、「あんたって、ニート街道一直線だねぇ。」と私を見てため息をついていたが、私もそれについては反論できなかった。
外と接触したくない、なんて、うちの経済状況じゃ許されないだろうけど。
そして、今日もぎりぎり閉館まで図書館にいて、家に帰った。
お風呂に入って、残り物でサカサカ夕飯を食べる。
四畳ほどの自分の部屋に戻って、すぐ布団に入った。
耳には、母が祖母と電話越しに話していた会話がリピートされる。
「そうなの。本当に何を考えてるのかわからないけど、あんな年寄りのように自分にも無関心なんてねぇ。それなりに産んであげたのに。えっ、違うわよぉ、絶対私の方の血なんて・・・・。」
いつもの、困った娘の話しと、このまま育つと文武両道になりそうな弟の話し。
今日見つけた新しい本を思い浮かべ、眠りにつこうとすると、声が聞こえた。
昔から、本当に昔から繰り返し繰り返し聞こえる泣き声。
高く低くひっそりと聞こえる泣き声が、私以外に聞こえないと知ったのはいつの事だったろう。
時々こうして聞こえる泣き声が、最近とても鮮明になってきた気がする。
私はその泣き声を聞きながら眠りについた。