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第一話 転生の音

 つんざくような高い音と、聞き慣れた三つの声が重なって、まずいかもと思った途端視界が暗転した。

 微かに想像していた鈍く重い感触はいつまでも伝わらず、むしろふわりと自身の内側だけが浮遊しているような感覚に襲われている。

 平衡感覚がまるでない。意識だけがただ虚空にあるようで、身体の輪郭がどろりと溶けていく。何にも触れられない。空気の存在すら怪しく感じる。それなのに俺はここにいるらしい。

 気が狂いそうだ。これが本当の地獄か。いや、そもそも俺は、どうなったのだろう。

 確か、俺は。今の、あの瞬間……。

 __そう思い出そうとした時。意識が、ぷつんと途切れた。



 次に意識が戻ったとき、俺は全身を地面に打ち付けられた。

「い、だっっ!!」

 乾燥し固まった砂と土が頬に触れる。地面は生温かいくせに、俺へダイレクトに痛みを伝えた。

 待ってほしい。わけが分からない。まず俺はどうなったのだ。

 急いで起き上がり、辺りを見回す。絶句した。

「どこだよここ…!」

 言うなれば非現実的な街並み。でも多分、モデルは俺が生まれた世界の文化。

 ベースは洋風なようだけど、どことなく中華っぽさも感じられる。奥の方には日本家屋のような建物が見えた。異国情緒溢れる、という例えはきっと違う。外国に詳しいわけじゃないから見合う言葉を上手く並べられないけど、でも俺はあまりの異世界感に息を呑んだ。すごい景色だと、直感的に思う。

「いや違うだろ、俺。まずここは」

「そこのお前。何をしている」

 思考する最中、体の内に響くほどの重低音が聞こえ、我知らず肩がビクッと跳ねた。声のした方を向けば、全く知らぬ男が2人、こちらを見下ろし立っていた。

「え、は…?」

「黙ってくれるな。何をしているのかと聞いている」

「まぁまぁ、少しは優しくしなよ。何か事情があるようだって、ちゃんと見て汲んであげないと」

「知らん」

 断固として主張を変えるつもりがないらしい白い髪の男と、どことなく優し気で少し困っているような色を浮かべる青い髪の男。何一つとして状況を把握できない俺の前で、奥の景色よりも現実離れしたやり取りが行われている。あっけにとられた俺だったがすぐさま、まだ話の通じそうな青い男に話しかけることに決めた。

「あの、すみません。俺、ここがどこかもわからなくって……。どうか元の場所まで案内してくれませんか?」

「どこかわからない? 元の場所って、もしかして育成学校から抜け出してきた子かい?」

「は?」

 通じなかった。おそらく前提から食い違っているのだろう。ただ一つだけ確実なことは、ここが俺の生まれ育った世界ではないということだ。

「違うんです、俺、普通に人間で」

「えっ?」

「……おい」

 先程まで微塵の興味も失せたように黙っていた男が途端に口を開き、半ば強引に俺の左腕を掴んできた。元より低かった声には一段と厚みが増し、ファーングリーンの瞳には鋭い光が差している。

「それは事実か。貴様の生まれは何処だ。歳は、名前は? ここの住人にしては珍妙な服装だと思ったが、そうなら全てに納得してやる。答えよ」

「なんだよ、離せよ! なんだってそんないきなり血相変えて」

「ごめんね君。悪いけどすぐには帰せない。ついてきてもらうよ」

 比較的柔和な態度だった男も真面目な口調に代わり、有無を言わせぬ物言いをしてくる。いよいよまともに話すことが叶わなくなったかと思われたが、続く言葉で俺は自身の立場を理解することになる。


「手短に説明しよう。ここは君のいるべき世界じゃない。今君がここにいることはあり得ないはずだ。来てしまった理由によっては、帰してあげることが難しいかもしれない。けれど確実に安全な用意をする。だから、着いてきてほしい」


 何かの因縁か、偶然の思し召しか。知らぬうちに俺は、摩訶不思議な世界に足を踏み入れてしまったのだった。

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