Californication
タクシーに乗った。
乗った途端に、
「行先はいつもの耳の穴ですか?」と運転手に聞かれた。
私は「いいえ、■■動物園までです」
と答えた。
「■■店までですね、いつもご乗車いただきありがとうございます」
と囁いた、私に聞こえないボリュームだった。
よく聞こえなかったので、私はそっと背もたれにもたれ掛かり、片方だけイヤフォンを耳に差した。
半分だけの音、半分だけの世界。
私の頭はぷつりと切り分けた。
タクシーは静かに走っている。
しばらくして運転手さんに聞いてみる。
「■■動物園までであってます?」
「着いたら教えますよ」
ふと目に止まった助手席後部の背もたれ、運転手の名刺が入れられたケースがある。
そこに目を凝らすと、
「あなたの思う日を、ありがとうございます。」と運転手の名刺が入っていた。
そっと手に取り、ポケットに入れる。
じっとり濡れた後乾いたような、嫌な感触がした。
「昨日ニュース聞きましたよね。
ほら、あの喫茶店の店員が突然消滅した、目の前でざああって、砂嵐みたいに」
片耳だけで聴こえる情報は、どこか嬉しそうに信号を送る。
イヤフォンを突っ込んだ耳からは
Red Hot Chili PeppersのDani California
が流れていた。
タクシーはまたしばらく走る、突然軽快に流れていた音楽にノイズが走る、ぴーざざざあ。
耳が痛くなるがすぐに音は元に戻った。
思わず運転手さんの方を見る。
バックミラー越しに見る運転手さんの顔は、死んだ魚のような目をして無表情にそこにあった。
「今日は暑いですね」
何となくその場をやり過ごそうとして私は話しかけた。
「山の中の一軒家、あそこに行ったらどうです?耳に弾を込めると成功しやすいそうですよ」
私は笑いながら
「へえ。そうなんですね」
と答えた。
しばらく走ったところでタクシーが停まる。
ちょっと高いなと思いつつ料金を支払いながらも、私はここで降りるべきかどうかが分からなくなっていた。
片耳からは相変わらずDani Californiaが流れている。
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