第一話「Sultende」
「ここは、どこだ?」
辰之助は目を開く。すると、視界に文字が浮かび上がる。この場所の、名前だろうか。
「Sultende、何と読むんだ?……スルテンデ、でいいか」
何か、思考の奥に引っ掛かりがある。それを探ると、文字列の下に、小さな注釈のようなものが浮かんでくる。
「動詞sulteの現在分詞、sulteは『飢える』を意味する、ノルウェー語ブークモールの単語、か」
あの、「女神」を自称した不審者によれば、ここは異世界だという。ならば、ここは異世界らしい。意味がそのままであるとは、限らないが……
「なんだよ、ここ……ガリガリの、死体だらけじゃあないか」
人間、動物、虫、色々なものが死んでいる。怖気を発しながら、何とか進む辰之助の前に、死にかけの獣が立ちはだかる。
「なっ……!」
視界の下方に、新たな単語と一本の赤いバーが表示される。
(Alarmerar……デンマーク語の動詞alarmeraの現在直説法。意味は、『警告する』、か。英語のAlarmとスペルが似てるな……うっ!?)
黒い敵は耳をつんざくような叫びを上げる。辰之助にダメージはない。だが、一瞬、平衡感覚を失う!
(やられる!)
辰之助は振り下ろされた腕をビニール傘で防いだ。
「ぐぅっ、もし、今のを直接喰らったら……」
体勢を立て直して距離を取る。ビニール傘は一撃すら耐えられず折れてしまった。武器としても、盾としてももう役には立たないだろう。
(何か、ないか!……そうだ!)
……あの女神(自称)の寄越した祝福『辞書』。辰之助は脳内でボタンを押すイメージを描き、能力を発動する!
「lower chamber」(英)…英国・米国議会の下院 効果なし
「сытости」(露)…名詞「сытость」の主格複数、意味は『満腹』 HPが全快
「胺基酸」(中)…アミノ酸 筋力が1上昇
結果
残りHP 1→1
筋力 1→2
攻撃力 1→6
(な、何が起きた?)
辰之助は壊れたビニ傘を敵に投げつけ、隙を作る。
(筋力が上がって、それで攻撃力が上がった?かなり上げ幅が大きいな。だが、素手では……)
辰之助は敵を見る。……逃がしてくれる気配はない。やらねば、やられる、か。
「なら、せめて、一矢報いてやろう!」
辰之助は拳での抵抗を試みる!
辰之助:攻撃力 6
Alarmerar:防御力 2
与ダメージ:4
残りHP:20-4=16
(あと4発か……何か恐ろしく馬鹿なダメージ計算がされている気がするな)
辰之助はもう一回『辞書』を使えないか試すが、反応が無い。再使用には一定のインターバルを必要とするのかもしれない。
辰之助は距離を取りながら、相手の攻撃の振り終わりに突きをねじ込むというのを、4回繰り返すこととなった。
倒れ伏した敵を見下ろす辰之助は疲弊しきっていた。過去の記憶はないが、自分は喧嘩とか殺しとかとは無縁の人生を送っていたはずだ。そもそも、虫を除けば生き物を殺すのさえ初めてかもしれない。酷い気分だ、と独り言ちる彼の視界に、再び文字が浮かび上がる。
「anticrossing」(英語)…反交差
経験値12獲得
「この単語と経験値に何の関係が?……あ、文字数か」
もしかすると、これも祝福の効果か。……ひとまず、これまでの情報を整理しよう。
祝福:『辞書』
・知らない場所に行くと、その場所の名前が分かる?
・敵と遭遇すると、その敵の名前ないし性質を表す単語が表示される
・戦闘時に発動すると、ランダムで単語が3つ表示され、何らかの効果を得られる場合がある
・敵を倒すと、ランダムで表示された単語の文字数と同じ経験値を獲得できる
「……分かったところで、だな。そもそも、この薄暗い場所が、どのような場所なのかすら曖昧だ」
暗い顔をする辰之助。その背後に、近づく影があった。
「……!また、敵か!」
Wiktionary英語版のRandom entryを使ってランダムな単語を表示させ、それに従って冒険を進めるというよくわからないアイデアで書いています。
ちなみに今回の敵の防御力は名前の文字数と、ランダム表示した別の単語との差として設定しました。
絶対つまらないと思うので失踪します。




