意外性
この日、シートの上で目が覚めた。そら、そこで寝たんだから当たり前過ぎることだ。でも、目が覚めたと同時に身が冷めた。背中が汗でぐっしょりとしている。そういえばレミンはどこだろう。昨日寝落ちしてしまったからあのあとどうなったかが分からない。もしかしたら吸血鬼だし寝る必要ないのかな。
レミンを見つけるために身体を起こして、座ったまま辺りを見回す。昨日と同じで真っ赤だ。
いや、少し違うな。血が乾いてなんか…錆び臭い。美味しそう。
「ん、やっと目が覚めたんだ。今はえ…とね、9時過ぎだよ。」
レミンの声が聞こえた方を振り向くと、天井に立っているレミンがいた。
「違うよ。6時だよ。」
レミンがあっそっかという反応をしていた。
天井に立っていたから6がひっくり返って9に見えてたみたいだ。
ていうか2か3時間しか寝てないわ。寝っむ。
「違うよ黒水。午後のだよ」
「えっ」
急いで洞窟の外へ出る。外は薄暗かった。
朝早いから暗いのかと思っていたけど普通に夜だから暗いだけだったみたい。
「というか、今季節冬だったのか。だってこんなに夜が来るの早いんだもん」
そっかレミンはカレンダー見てないから今何月何日か、とかは知ってなかったんだ。
「今何月何日?」
レミンが聞いてきた。うちは、スマホから日付を確認しようとしたが、充電がなくなっていたのを忘れていた。電源はつかなかった。太陽光にも当ててなかったから太陽光発電もできていない。その様子を見てレミンが
「モバイルバッテリー必要?」
と言ってくれた。
「ごめん。マジ助かる」
「ちょい待ち」
レミンの掌に光が発生する。その後、光が消えると、レミンの手には長方形の白いものが握られていた。レミンはそれをうちに渡す。うちも一旦受け取る。そして聞くのだった。
「なにこれ」
「モバイルバッテリー」
「…………」
た…ぶんレミンの時代のかなぁ…
「対応してないっすね…」
レミンがガチ目に驚いて、天井から落ちてきた。でもすぐに落下中にくるりと回り綺麗に着地したのだった。しっかりポーズも決めて。
「5点」
「厳しい!」
まぁ点数の付け方なんて知らないからなんとなくそれっぽいの言っただけだけどね。
「そうだそうだ忘れてた。聞こうとしたんだった。え…と大丈夫?」
「何が?」
キョトン?
「いやキョトンじゃなくて、すっっっっっっっ」
その後も10秒くらい「っ」は続いた。うちは待った。
「うなされてたけど。悪魔でもみた?」
「悪魔じゃなくて悪夢だろ。というか悪魔はレミンでしょ」
吸血鬼だよ!とレミンからのツッコミを受け流しながら落ち着いてレミンに向かって話す。
「うん。少し悪夢見ちゃっただけ。昔のことをね。だから大丈夫」
「焦り過ぎだろ文脈おかしいだろ」
「木のせいだよ」
「自然に擦り付けるな」
「木の精だよ」
「そんな神秘的な!?」
あぁ…脳死トーク楽しっ。
「そういえばレミンさっき洞窟の外に出た時に遠くから誰がこっち見てたんだけど」
「それ結構大切なやつだろ。なに?ジャッジとやら?」
急いでレミンが洞窟の外に出向く。うちもそれに続く。レミン移動速度速っ。あいつだけ1.2倍速なんじゃないか。
洞窟の外をみるとなんだろ…こう…子供向け番組の魔法少女によく使われるようなキラキラエフェクトというかまぁそんな感じのやつが降っている。
外に出て上をみるとそこには、魔法少女がいた。比喩じゃなくて本当の。うちも知ってる魔法少女。だっていつも街を護ってる人だもん。よく事件現場とかにいるし。事件が起きたときに警察の手伝いをしているとよく聞く。偽善者が。名前は
「シャイニング・ジャスミン・ティー!」
「シャイニング・ジャスティス・エミ!」
おぉ意外と魔法少女もノリがいいんだな。ツッコミくれた。
「いや黒水さんや。普通に怒ってるだけだと思うぞ。すっごいプンプンしてる」
ジャスミンティーは、頬を赤くしながら膨らませ、明らかにプンプンしてるな〜って感じのエフェクトが出ていた。自分で出してるのかな。
「だからお茶の名前にするなー!」
「それ自分で出してんのー?」
レミンが変わりに聞いてくれた。ナイスタイミンググッド。
茶は、
「茶言うな」
……エミは、少し何故か自漫げに答えた。
胸張ってんじゃねぇよ。当てつけか。子供向け番組にいそうな魔法少女が胸発展すんなよ。
「私はキラキラだからね!世界が勝手にそうしちゃったんだよ!」
なんかもう聞くの面倒くさそうだな。レミンもそう思ったようで、つまりもぐらってことね(?)と納得(?)していた。
シャイニング・チャステス・エミ…噛んだ…
チャイニング…また噛んだ…もうめんどい。
茶は、
「茶言うn…」
「黙れ」
「ひゃい!」
ナイスレミン
気を取り直しまして
茶は、ステッキのようなものを振りかざし、先をこちらへ向ける。
「悪い吸血鬼さんと対峙したら退治よ!」
これは…どっちだ。ダジャレなのか偶然なのか…いやでも明らかにわざとだよな。突っ込まないのも無粋か?いやでもなんかも妙に言い慣れてそうなんだよな。てことはやっぱ…
「おいいつまでギャグ続けるんだよ。流石にちゃんとしとこうよ」
レミン怒られた。ごめんふざけ過ぎた。
「黒水は下がっといて」
「えっ…うん」
戦闘に入りそうだからかレミンがうちを庇って下がらせてくれた。優しい。
レミンは、右手を少し開いた。
「あっないんだった」
どうやらレミンは武器を使って戦ってたようだ。すぐさまレミンは、古臭い火薬が使われているハンドガンを生成した。
「じゃあ行くよ! マジカル・ハッピー・ホールド☆」
エミがステッキを振ると、ドピンクの光のリボンが蛇みたいにレミンへ襲いかかった。触れた岩が「ジッ……」と溶けてる。地味に殺意高っ!
「おっと。ねぇ黒水、この紐、今の時代ならいくらで売れるかな」
「売れないよ! ていうか避けて! 溶けてるからそれ!」
レミンは壁を垂直に駆け上がりながら、バク転で熱線を回避する。動きが1.2倍速どころか、もうフレームレートが足りてない。
「動かないでよ吸血鬼さん! 正義は必ず当たるんだからっ☆」
「当たるまで撃つのは正義じゃなくて、ただのゴリ押しって言うんだよ。」
レミンが表情一つ変えず空中で古臭いハンドガンを連射する。ドン、ドンと火薬の音が響く。
「きゃっ!? ちょっと、弾丸が服に当たったら汚れちゃうじゃない!」
「汚れを気にする魔法少女なんて、洗濯洗剤のCMくらいでしか見たことないよ!」
「黒水ちょっと黙って」
黒水のツッコミを背に、レミンは空中でぬいぐるみの爆弾に突っ込むような形で落下していき踏みつける。ぬいぐるみは爆発したがそれより早く踏切って、さらに高く跳躍した。
「えっ、うそ、上がってきた――」
焦るエミの首根っこを掴み、レミンはそのまま地面へと着地し、投げ捨てる。
「……いたた。ちょっと吸血鬼さん、レディの扱いが雑すぎない? ジャッジのお兄さんたちはもっと優しく――」
「あー、うるさいうるさい。黒水、こいつの頭、中身詰まってると思う?」
「……え、何その質問。頭蓋骨とか脳みそとか…」
エミは仰向けに倒れたまま、必死にステッキを構え直そうとする。
「ちょっと……まだ、決めポーズの……」
でも、レミンの動きはもう止まらない。
膝を曲げ脛を蹴るような蹴り方で頭を踏みつける。
「……あ」
エミの口から、小さな声が漏れた。
パキッ。バキッ。ぶぐじゃっ。
冬の朝、道端で誰かが森の地面に落ちた木の実の上を歩きながら踏んづけてしまった時のような、そんな音。
ここが洞窟じゃなかったらもっと生々しく無かったんだろうな。踏み潰した音が洞窟に反響して何重にもなって耳に入り込んでくる。
レミンは、足に付着した汚れを指で拭き取り、ペロリ。ソースの味見でもするかのようになめ取って。
「うん!」
笑った。無邪気に悪気もなく。でも多分この場合、子供が虫の足を千切って遊んでいる時の、そんな感じ無邪気が該当するのだと思う。
呼吸がしにくい。喉がなる。レミンと死体以外が視界にはいらない。網膜に焼印でもされたようだ。
返り血まみれのレミンは、紅い目を光らせながらこちらを見て言い放つのだった。
このときレミンは、気まずそうな表情をしていた。
「ちょっと席外してもらえる?」
「えっ」
何処かから声がした。自分の声だと思う。
洞窟の奥へ走り込んだ。
え?なんで?人を殺しておいて悪気がないわけ?そうだレミンは吸血鬼だ。人なんか…あっそうか。レミンにとって人は食べ物の内なんだ。気持ち悪い。悪気がない事が気持ち悪い。
「ねぇ黒水」
反射的に振り返った。レミンの口周りは血で染まっていて手が茶色に汚れていた。
「レ…レミン何も感じないの…?」
レミンは、何かを読み取ったかのように言った。
「黒水って意外と…恐い人かもね。それは置いといて魔法少女って普通3〜5人チームだよね」
置くなよ。うちはお前が恐いよ。
だって普通人を殺したら罪悪感を感じないといけないでしょ。
こんな常識のないやつとずっと一緒なんて。
運が無い。




