もねほらね
科学と魔法が何故だか同時に発展し存在している世界。魔法は義務教育を通った人なら確実に使えるだろう代物。そんな世界に運の悪いことに魔法が使えない少女、家竜黒水が巻き込まれるお話…かもね。
侵入した洞窟で、彼女の「いつも通り」はたった360秒で粉々に砕け散った。
「正義の味方」ジャッジによる無慈悲な爆発。血の海。
そして、目の前でひょっこり起き上がったのは、ずっと死体だと思って悩み相談をしていた420歳の吸血鬼だった。
うちは、あまり運が無い。あまりに運が無さ過ぎて、ある意味、過ぎた人間と言ってもいいのかもね。でもね、一つだけある、存在している運的なものがある。悪運とやら。とは言ってもそれを自覚したのは最近。大体300…あれ…360秒前なんだ。じゃあ分に直すと6分前。あまり覚えていないのだけれど何かに…そうだ「ジャッジ」…そう、警察気取りというか軍隊気取りと言うか…威圧的な制服を身に纏っていてちょっとした独裁なんかもしちゃってて。まるで軍と警察の悪い部分だけを鍋に入れて煮詰めてぶち撒けたような、そんな組織がうちに来てなんか、爆弾…手榴弾だっけ?が転がってきてこうドーンって音がして、意識が飛んだ。そして今目が覚めた。意識が無かったのに何故時間が分かったか、理由は単純明々確、時計があったからだ。意識が飛ぶ直前にも時計が見えていた。その時は、時計は1時24分を指していた。今は、1時30分を指している。人は意識が飛ぶとその直前の記憶が無くなるらしいけど、うちはそれが対応してくれなかったらしい。まぁ、前から記憶力はあるかもしれないと思ってたからね、自分事ながら。というかなんでこんな事になっちゃったかな。うちはただ、吸血鬼の死体にいつも通り話しかけていただけ。相談役にというか話を聞いてもらっていただけなのに。この、何回も来ているのに未だどこだかわからない明るい洞窟の中で。 ………………………………………………………辺りを見回す。そして一言
「真っ赤だ。」
壁も天井も地面も…うちも。きっと壁を綺麗にしたかったのだろう。ペンキでも塗ったのかな?そこでジャッジが来たのかな。
視界がチカチカするし手足が動かない。いや動いてはいる。感覚が無い。視界に自分の手足を入れた状態にするとわかる。動かしてるなぁって感じはしていないけどちゃんと自分の思う通りに動く。寝起きで自分の腕を枕にしていると血が止まって朝起きると感覚が無くなる…みたいなものかもね。
というか視界に手足を入れて初めて気づいた。手榴弾の破片が主に左腕に刺さっていてだいぶ出血をしていたようだ。血はすでに固まって赤黒い塊となって傷口をふさいでくれていた。ありがと。
「んっしょっと」
ここでやっと感覚が戻ってきた。仰向けで倒れていた身体を起こし、さっきよりもハッキリと辺りを見回す。
「この人たち…なんで倒れてるんだろ。寝てるのかな?でも、ここにいるだけで不法侵入だよね。警察でも呼んであげようか」
うちの首にかけていた紐をたどりポケットに辿り着く。そしてポケットからスマホ(スマホカバーに紐付けてる、便利だからね)を取り出す。
電源ボタンを押し画面がつくとそこには空っぽの乾電池の画像が現れた。充電0パー。運がないなぁ。特に根拠があるわけではないけれども普段なら必ず39パーはあるような気がするのに。というか今更ながら思う。
…うちも不法侵入だよね、これ。今まで当たり前のようにここに来て、過ごして、のんびりとしていたから忘れていた。ここ別にうちのものじゃなかったわ。充電切れててよかったー。危うくうちもなんやらかんやら損害だとか損壊だとかよくわかんないもので捕まるところだった。しかも別にうち、この倒れてる人たちの説明とか一切できないからね。
「危ない…危ない…」
「能天気なやつめ。アンタはバカなのか?」
急に後ろから洞窟に反響した声がした。驚きで飛び上がる。そしてすぐ、うちは後ろを振り返った。
さっきまでうちが倒れていた地面があるだけだった。
「き…きのせ…い…だよ…ね?」
「そーかもね、気のせいだよ。」
「何だ良かった。じゃあお休み」
「お休み、風邪ひくなよ」
今は夜。眠いからもう1回寝よう。そのままさっきと同じ様に床に横になり目を瞑る。
「おい!確かにノリを作ったのは私だ、でもまさかそのまま寝るとは思う筈がないじゃん?」
もう夢に入ったのか…今日は夢なのに音がはっきり聞こえるなぁ…足音とか…
「だからぁ!夢なわけないだろうがよ。ほらほら?今耳元のすぐ近くにいるよ?結構足音立てながら近づいてきたよ?なんならわざとペタペタと血溜まり踏んできたよ?」
指で瞼の上と下と方をそれぞれ親指と人差し指で押さえ、無理矢理開かれる。そこには、いつも話しかけていた死体のはずの顔がうちの顔を覗き込んでいる。
「…まじ?」
「ガチ目のマジ」
「これ死んでる?」
「死んでる。私が殺った。」
「フーアーユー?」
「アイムヴァンパイア」
「ユーワズデッド?」
「アイムアンデッドエブリタイム」
「うわぁ」
引いた。普通にノリが良いのは分かったけど。なぜだかすっごく引いてしまった。
え?なに?まさか普通に今まで相談窓口代わりに話していたこと全部聞いてたの?結構今まで恥ずかしいこととかも話しかけてたんだけど。え?やめてよね。
「全部じゃないけどある程度は聞いてたよ。例えば…『うち最近え…』」
「やめろぉ!!!!」
急いで起き上がり口と吸血鬼の胸ぐらを掴み上げる。軽っ
「ペロッ」
「ひゃぁああ!いやああああ!きゃあああ!」
口を押さえた手を吸血鬼が舐めた。舐められるってこんなくすぐったいんだ…いやいやそうじゃないそうじゃない
「舐めたぐらいでそんな…オーバーリアルマネーだなぁ」
「オーバーリアクションだよ!株でもやってんのか!?かすってすらないよ!もっと合ったもの選んでこいよ!」
「どこで?」
「百円ショップ。」
「値段は?」
「298(にーきゅっぱ)」
「百円じゃねぇじゃん」
「何百とは言ってない」
「…話進めよっか」
ジャッジの死体から電気機器がショートでもしたのかパチパチと音と煙を出している。外も洞窟も静かでうちらの話声とショート音が洞窟に反響するのみだ。外もだいぶ静からしい。
「やだよ…」
嫌だと言っても吸血鬼はその言葉を無視し説明を始める。長々とした説明だと嫌なんだけど。これで長かったら後悔するよ。というか眠くなっちゃうよ。
「この洞窟の説明からするね。全部知らん!じゃあ次、この人たちの説明をするね。全く知らん!次、なんでこう(全員殺した)のか。攻撃してきたから!次、なんでお前を生かしたか。なんか…完全に巻き込まれた人っぽそうな感じがしたから。これでも私は状況把握が得意なんだよ。」
簡潔だけど…長い。その上適当。これで状況把握が得意なんだよとか言われても信用できるわけないだろ。
「連想ゲームを゙も得意だよ?」
「関係ある?」
「それなりに?」
それなりにと言われてもなぁ。大雑把だよね…
「そんなことよりも、早く次行ったらどうかな」
「そうだね、ラストだよ。私のこと。私は見ての通り…いや見た目は人間か。何だったら子供か。えっとじゃあ…中身通り?吸血鬼だよ。」
吸血鬼…さっきまで死んでいた筈の吸血鬼。人間なんかよりも上位存在として君臨する、あるところによれば信仰の対象にもされているらしい吸血鬼。生態系のトップカースト。おとぎ話程度でしか誰もが知らない伝説の
「伝説って?」
「は?」
「惜しい!」
態度が軽い。吸血鬼って普通こう…長生きしてるから威厳たっぷりとかそういう印象がつよいのだが。まぁやはり話程度ということだ。
「あ、ちなみに私全然年取ってるからね」
「何歳なの?」
「何歳に見える?」
「十字架をくれてやろうか」
「いつの吸血鬼の話だよ」
今の吸血鬼って十字架効かないんだ。普通に見るだけで苦しむもんだとばかり思ってた。じゃあ大蒜も別に食べれるのかな。それから太陽も平気だったり。
「十字架はね、刺されるとめっちゃ効く。大蒜は余裕。太陽はね自作の薬があるからね。でも薬ないと重度の熱中症患者みたいになるからね」
ほら、と薬を見せてくれた。シンプルな錠剤だ。オカルトじゃなくて科学で弱点を克服できるらしい。
というか十字架刺されたらって…人間もなんか刺されたら普通に痛いよ。
「吸血鬼って古い印象持たれがちなのか知んないけどファンタジー以外も使うからね。意外とね。」
結構そんな感じらしい。
そういえば忘れていた。確か何歳に見えるか聞かれていたんだった。
うちは、吸血鬼の頭のてっぺんから足先までを観察する。見た目は女の子だよね。瞳は紅くて、肌は柔らかそうで、それでいて美少女。かわいい。ショートヘアーで髪の色が目の下より高い髪は紫でそれより下は金髪で独特。染めてるのかな。月明かりが反射して艶が出ている。さっき蘇ったばかりなのに。内側もそんな感じの色。身長は小さく、150くらいしかなさそうだ。中学生かな?
「おいおい…そんな女の子をじっくりと舐め回すように見るか?視姦されてる気分になるぞ…」
視姦ってなんだろ…
「ヨシ。分かった。14歳!と言いたいけれど…吸血鬼は不老不死というからね。だから…140歳!」
吸血鬼は、手を平たい胸の前で交差させる。
「不ッ正ッ解ッ!正解は〜〜〜〜?」
ババン!と口で効果音を言う。
「420歳でした〜〜〜〜!」
「想像の3倍近く長かった…」
「と、言ってもちゃんと意識を持って生活したのは84年くらいだけどね。それ以外はず〜っと封印やら死んでるやらそんな感じ。」
「封印?」
封印なんてされるもんなんだ。まぁ吸血鬼なんて危険そうだしもしかしたら今はこうなだけでこの吸血鬼は、凶暴な問題児なのかもしれない。
「いやぁね私結構危険視されてるらしくてさ。昔なんて私倒す為に国を相手にしたこともあるし…他にも私を殺すか殺さないかで戦争になったり…」
やっばいのにうちは毎回話かけてていたらし
い。というかまずい冷や汗めっちゃ出てくるんだけど。無知って怖い。鞭より怖い(なんつって…ヘックシ)とにかく言うまでもなく不味い。完全なる争いの火種じゃないか。やだよまだ友達に死んで欲しくない。隣の部屋の子うちの親友なんだからね。ほんと、やめてよね。
「ん?あぁ、大丈夫だよ安心して、私はこれでも人間に害をもたらすつもりはないんだ。のんびりとお喋りして、過ごしたいだけなんだ。」
「そうなの?」
「これでも、友達がいたはずなんだよ。随分会ってないけど。人間の友達だっていた。いい奴だった」
その友達を語るときの吸血鬼の表情は可愛らしく、美しく、儚げで、そして死んだ目をしていた。何故だか分からないけどその表情を見ているうちは、見惚れてしまっていたのか見入ってしまっていた。丁度洞窟の入り口から月明かりが差し込むところに吸血鬼は立っていたから、まるで絵画を見ているような、深海のマーメイドにも勝る美しさだった。
「あ、ちなみに多分その死体の奴らが戻ってこないことにそいつらの仲間が不審に思う筈だから、お前も巻き込まれて、厄介なことが起こるよ。死にたく無かったら私に任せな」
「は?」
こうしてうちは、運の悪いことに人類の敵側に立ってしまうことになったのだった。
死体があって吸血鬼に遭って…
ほらね、うちって本当運が無い。
ごめんガチでムリ。
運が良ければやなことが起きないのかもしれない。でもやなことが起きるというのもまた運がよいとも言えるかもしれません。なぜなら教訓を得られないから。そんなのただの屁理屈だと思うかもしれません。まぁ実際屁理屈だと思います。運が良ければ教訓なんていりませんしね。運って本当都合がいい。




