海の息
私は今、フェリー乗り場にいる。
東から吹いてくる風がなんとも気持ちがよい。
この近くに小さな山があるので、今日はそこを目指して歩く。
山道入り口までの間には、酒屋や銀行、歯科や小さな総合病院があった。
コンビニがあったであろう建物には、「貸物件」の文字が見える。
いよいよ入り口に着いた。草が生い茂っていて入り口なのか迷ってしまった。
その側にはこじんまりとした古い食堂があり、なぜか入ってみたいと思ったがそれはあとにすることにした。
まずは緩やかな坂。薄い鼠色のコンクリートを歩いていく。歩いてみると少しきついな。
道の両脇には草が茂っていて、いつ生き物が出てくるのかと緊張した。
100メートルほどを歩くと道が開けた。
野原のような景色が180度広がっている。太陽に照らされた草木が風の揺れと共に細かな光を放っていた。
私は少し見とれて、そこで5分ほど景色を眺めふと我に返り、右手に続いてる道を歩き始めた。
緩いけれども坂になっていて、程よい運動コースに感じる。
まだ海は見えない。草木だけが私を囲う。
開けたと思った道はまた狭くなり、そこは木陰になっていた。
風がよく通る道で、涼むにはちょうど良い場所だ。
少し暗い感じが山の持つ怖さを表しているように思えた。
と考えて歩いていたら、突如として海が見えた。
「あれ、こんなすぐに見えたっけ?」
私はふとそう思ったが、比べている過去の記憶はもう20年以上前のこと。
子供のころと大人のころの感覚は変わるものだと忘れていた。
きっと子供のころは、ここに来るまでの茂った草木に突っ込んでいき勝手に山探検を始めたり、歩くことに飽きてじゃんけんで勝った人がグリコだのチヨコレイトだのパイナツプルだのと言って、進んでいくというあのゲームをしていたんだろうか、などと思いを巡らせた。
とてつもなく懐かしい思いに駆られ、私の足取りは早くなった。
「頂上に行って景色を見たい」
ただそれだけだった。
少し歩くと目の前に石の階段が現れた。
そんなに立派なものではなく、自然と一体化している階段だ。
階段のふもとにはなぜか石でできた竜がいる。なぜだろうと思いながらも、すぐ目の前の頂上を目指した。
一段一段、しっかりと踏みしめていきやっとついた頂上。
スタートの時よりも風が強く感じる。
空は青く雲は少ない。そんな秋の空が好きだなと思いながら目の前の海に視線を移す。
東から登った太陽の光が海を照らし、波一つ一つを輝かせている。
キラキラと光るその海は生きていたんだ。
波は血流のように前へと動き出し広範囲に広がっていく。
太陽の光は、こんなにも活力をくれるものだっただろうか。
その風はこんなにも近くにいて癒しを与えてくれるものだっただろうか。
私は遠くを見つめた。
草木の声を聴き、風の歌に乗り、海に溶け込んで生命を感じようとした。
「生きていてよかった」
そう口に出せるほどに、私の心は生きていると知った。




