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震える剣  作者: 結紗
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アウラ ~神託者~2


ドラゴン、みたいなものはデュークという種類らしい。

こんなのの背に乗ったりしたら、確実に落ちる。滑り落ちている様子を想像して顔を青くしていると、当のデュークが大きな羽を羽ばたかせて上昇した。

ぐん、と何かが持ち上がるような音がして、ずずっと石の床が引きずられる音。

櫻は、瞑っていた目を開けた。


「アウラ。これに乗ってください」


デュークに括り付けられた太いロープ。そのロープには、小さな虹色の箱が括りつけられていた。

……ロープーウェイ、みたい。いや、観覧車のゴンドラか。

櫻の内心をしらず、青年は淡々と箱の扉を開けた。


「どうぞ」


自分が乗って見せてから、櫻に手を差し伸べる。

わかってるじゃない、と櫻は感心した。こういうとき、レディーファーストなんて嬉しくない。先に乗って乗るのを助けてくれた方がよほど楽だ。随分慣れた青年の掌に自分のものを乗せる。

……観覧車に乗ると思えばいいか。と彼女は嘆息した。

……たとえ、虹色の箱がきらめいても透明であるとしても。


箱は、入ってみると思うより広かった。観覧車のゴンドラよりは随分広い。

手を引かれるままに櫻は青年の元へと近寄った。

すると自然に箱が――もとい、デュークが高度を上げる。強い揺れに、思わず引きつりながら青年の手を強く握り締める。

きらきらと輝く謎の箱。だが透明のために青年の肩越しにあらゆる景色が丸見えなのだった。無論、ここがいかに高所であるかも一目瞭然。

固まった様子に気づいた青年が、声をかける。


「アウラ?」


「…………………」


無邪気な顔で顔を覗き込まれても反応できない。

青年は心なしか、苦笑じみた表情で言葉を添えた。


「大丈夫です、アウラ。このゴンドラは落ちたりしないですから」


「…………………」


「怖く、ないですから」


ね。と強く言われ、不安げな顔のまま櫻はようやく視線を合わせた。


「どうして、高いところが怖いんだってわかったの」


「アウラ、手が震えていますよ」


このデュークに乗ったからだと思うのが普通ではないだろうか。

そう思いつつもついつい視線が足元に行く。

青年はその仕草に、くいっと櫻の顎を支える。


「そちらを見てはいけません。高いところでは前か上だけを見てください」


いいですね、とどこか慣れたように教える青年。それを見上げていると、青年は苦笑した。


「姉が、アウラのように高いところが苦手だったもので」


微かに、口元だけで青年は微笑んで見せた。

現地の人にも高所恐怖症がいるんだ、と妙なところで櫻は安心すると、手は離さないまま、けれどデュークが向かう先に視線を延ばした。

それより、と青年も同じ方向を向く。


「この世界を見てください。ここが、あなたの世界になるのです。アウラ」


「……私の、世界?」


「ええ。どうか、この美しい世界をあなたの記憶に留めてほしい」


 青年の視線は、外の景色へと向けられた。

 デュークは速い速度で飛んでいるようだ。辺りに浮かぶ小さな島が、勢いよく後方へと消えていく。雲を突っ切るように進んでいくから、毎回視界が開けるたびに雲がちぎれて後ろへ流れていく。それが櫻には不思議な光景だった。背を支えてくれている青年の存在もあってか、次々に開けていく視界の美しさに見とれていた。

 深い藍色の空。それが天蓋のようにこの世界を覆っている。あらゆる景色は全てこの青を背景として、端然とそこに佇んでいた。


「……っすごい……」


 櫻は目を見開いて開けていく視界に釘付けになった。

 何て美しい。何てきれいな世界。

 美辞麗句はこの際いらない。だって、それほどまでにこの世界は美しい。

 小さな島にはどこも緑が溢れている。浮遊する島々もあれば、大きな存在感を持って浮かんでいる島もあった。幾つも。巨大な島には白い建築物が多く立ち並んでいるのが見える。人の姿までは認めることができないが、あそこには恐らく人が住んでいるのだろう。

 デュークはどんどん高度を上げていく。視界には低所にも高所にも、浮いている島ばかりだが、高所へ行くほど大きな島が目立つ。

 どこの島も緑で生い茂り、調和する建物。遠くには……


「えっ、滝?」


 どれ、と同じように覗き込んだ青年に、櫻は懸命にその場所を指し示した。

 遠く、既に下方となってしまっているが、あの中規模な島の緑の中で光っているあれは、どうみても滝だろう。島と島と繋ぐように、滝が流れているのだ。

 ああ、と青年は頷いた。


「ラカの滝です。あそこの水はとても澄んでいるので有名です。もっとも、近づける者は少ないですが」


 それはそうだろう、と櫻は納得した。あまり大きな島ではない。

 話しているうちに、周りの島は次第に少なくなっていった。どんどん暖かくなっているような気がするのは気のせいではないだろう。

 太陽に近づいているのだ。より高所に。

 だがあまり意識しないようにして、上を浮いている分にはパニックにならずに済みそうだった。何より景色が眼福過ぎる。

 ふと、櫻は青年を見上げて尋ねた。


「私たちはどこへ行くの?」


青年はすぐに天上を指差した。

まだ眩しくて見えないが、逆行となっている幾つかの島が見える。

あの中の一つなのだろう。……随分、まだ、高そうだ。

けれど櫻が聞きたかったのは場所の問題ではない。


「そうじゃなくて。どういうところへ、行くのってこと」


まさかこの好待遇(?)でいきなり牢屋っていう道筋はないだろうが。

青年は淡々と告げた。




「神殿です。神殿は、アウラのおわす場所なのです」



 

神殿、と櫻は繰り返した。

はい、と青年は静かに応える。







神殿は、すぐそこまで迫っていた。

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