真実7
注意
近親の性行為が入ります。
ストーリー上外せないものではありますが、気分を害する恐れがございます。
皆様、自己責任で閲覧のご判断を、お願いいたします。
遠く、遠く。意識の霞むような遥か向こうに変わらずに存在する、一つの楽園。
それはまばゆい陽光に彩られていて、少しも翳ることを知らない。白き薔薇が溢れ、大好きな人々の笑顔が満ちている場所だ。誰も犯すことのできない密やかな楽園。
禁断の楽園。
それこそが、ジルアートを形作る唯一のものだった。
見渡す限りの土地に、幼いジルアートが住む以外の邸は見当たらない。広大な領地だ。遠くの草原すらも見渡せたが、そこも彼の住まう一族の邸の一部でしかない。到底見えないさらに向こうに、邸を中心として囲うような塀が高く聳えていると家人が教えてくれたことはあるものの、彼本人は一度もそんなものを見たことはない。キルセルクの一族が住まう土地はどこまでも続き、無限にあるようにすら彼には感じられていた。
もっとも、それ以外のものを見たことがなかったので、想像のしようもなかった。聞くところによると、同じこの世界には多くの人々が住んでいて、崇高なるアウラという存在がいるということ。邸の中にある小さな神殿とは違う、大きな神殿がいくつもあること。そういった世の中のことを、ジルアートは家人たちの話の端々から聞きかじって育った。ここでは、そういった教育はされないからだ。ただ幼いジルアートは、少しだけ外の世界の話を聞くたびに憧れを抱いていた。………けれど、そんなものは彼の抱きしめる愛情たちに比べれば些細なものでしかない。
何の不満も感じない。日々健やかに過ごしている彼には、不満や不足といった概念すらなかった。愛してくれる優しい姉と、凛々しく立派な父がいて。
「ジルアート」
この声を聴くたび、ジルアートは頬を紅潮させてその声の主の胸に飛び込んだ。今日もさっそく飛びついた。庭で遊んでいたことなど彼女の甘い声を聴いてしまえば忘れてしまう。そのぐらい、ジルアートにとって絶対的な声だった。抱きつけば、同じように抱き返してくれる優しい腕。いい匂いがするその体躯。薔薇の香り。
ぎゅっと抱きついていたそれを離して顔を上げる。キラキラとしたジルアートの瞳は、天使のような微笑を湛えた姉を映し出していた。
「あねうえ、今日のお務めはもう終わったのですか」
少女はパチリ、と目を瞬かせた。ジルアートが「あねうえ」と呼んだからだ。
この呼び方は家人の一人が教えてくれた。自分は彼女を「あねうえ」と呼べるということ。新しい呼称がわけもなく嬉しくて、名前との違いもわからず呼んだ。
彼女は日に一度か二度、“お務め”のために数時間ほど会えなくなる。その間ジルアートは絵を描いたり庭で遊んだりして彼女が迎えに来てくれるのを待つのが日課だった。
今日はまだお茶の時間より早い。まだ陽が長いからたくさん遊んでもらえるだろう。そう思ってジルアートの心は浮き立った。
「いやだわ。ジーニャ。あなたがそんな呼び方をするなんて」
ジルアートの両脇を抱きかかえた彼女は、彼の視線に屈みこんで、めっと叱った。もちろん、その口元は優しく微笑みを浮かべたまま。そしてお務めは終わりましたと教えてくれる。
「わたくしのことは、アーチェとお呼びなさいと言ったでしょう」
「はい、アーチェ」
背の足りない幼いジルアートは、コクコクと見上げながら頷いた。
「よろしい」
くすくすと笑う、その笑顔が陽光の下でも眩しかった。柔らかな金色の髪がふんわりと風になびく。邸の周囲を満たす白い薔薇の香りが、いつものように鼻孔を擽る。あねうえ、という言葉は、こっそりと家人に教わったものだったけれど、ジルアートはすぐに使うのをやめた。
アジェリーチェが望むのなら、それこそが絶対だ。
にこにこと微笑むアジェリーチェを見ると、ジルアートも嬉しかった。鏡を見るたび、神様に赤い髪が彼女のような金色になればいいのにとお願いするけれど、今のところその願いをかなえてくれたことはなかったは叶っていない。
だからこれからもお願いするつもりだった。
大好きなアジェリーチェのように、なれますように、と。
父と同じ金色の髪。アジェリーチェと同じ金色の髪。叔母や叔父、厳しい祖父だっている。けれど全員同じ、金色の髪だ。
ジルアートも同じ髪の色になる。瞳の色は同じ色。髪の色までそうなったら、どんなに素敵なことだろう。
「さあ、お茶にしましょう。あなたの大好きなパイもあるのよ」
当然のように手を繋ぐ。家人はジルアートが一人でいる時以外、誰も接触をしてこなかった。そのことを疑問に思うはずもなく、幼いジルアートはただ嬉々として姉に従う。
毎日が同じように過ぎて行った。
笑い、家族を抱きしめ。ジルアートはその頃の記憶を思い出すたび、開けてはならない美しい幻のようにも感じる。
ジルアートの身体が成長するまでの、ほんの短い、追憶の日々。
***
ある日のこと。ジルアートが朝の寝台で、精通を迎えた日のことだった。その瞬間の驚きと羞恥は、淡々と支度に手を貸す家人たちによって拭い去られたのだが、報告は父の方にも及んでいたらしい。夜も更けるころに父の寝室へ呼ばれたのだ。
向かいながら、ジルアートは疑問を隠せなかった。何か大事な話があると言っていたけれど、どうして寝室へ呼ばれたのか、見当もつかなかった。書斎で叱られたことはあれど、寝室へ呼ばれたことは皆無だ。心当たりと言えば精通の件ぐらいしか見当たらないが、如何せん、こういった話題で呼ばれるとは気恥ずかしい。
それより、とジルアートは思い浮かべて頬を染めた。美しいアジェリーチェにこのことが露見したなら、自分は羞恥の中で死ねるだろう。今朝の驚きと体験を思い出し、再び居た堪れないほど紅潮していく自分を止められなかった。
人気のない廊下。蝋燭の薄明かりが足元を照らすが、ここにはまるで人気がない。
ジルアートは父の部屋へ辿り着いて、ノックをし、扉を開けた。
一瞬の闇。その次に彼の視界に映ったのは、想像を絶する光景だった。
「………ぁ……っ………あっ…あっ」
暗い室内を唯一照らすのは、寝台付近の壁にある一つの燭台だった。大きな一つの影が、揺れ動く。それに視線を取られ、光景を目の当たりにしたのは次の瞬間だった。
寝台で揺れる二人の男女。
ゆらゆらと揺れ動く女は組み敷かれ、背をのけぞらせて喘いでいる。
ぎし、ぎしと立派な寝台が動きに合わせて揺れていた。
足は扉を開けた時のまま動かなかった。動けなかった。
ただただ、この光景に目を瞠ることしか―――瞬きすらも忘れてしまったように見つめていた。
女の太ももを持ち上げ、律動する男の顔に見覚えがあった。その顔は、気づいたようにこちらを向いた。
ジルアートは息を止めていたことに気づく。
「何をしている。早くこちらへ」
「………ちち、うえ……?」
一体、何をしているのだろう。
この行為はなんなのだろうか。知識のないジルアートは、けれど不可思議な空気に慣れずに眉を寄せた。
父はそんなジルアートを機械的に招きよせて寝台の側面に立たせると、女の両足をより抱え上げて自らを強く埋め込んだ。息子によく見えるよう、結合部分を露わにしたのだ。
あぁ、としどけない女の甘い声がした。
ジルアートは目を瞠る。乾いた唇で、口を開き、けれどジルアートの視線は二人の結合部分から視線を離すことができないでいた。その視線を知りながら、父は動きを止めない。
粘着物が絡み合う音。
耳をふさぎたくなるほど恐ろしく感じるのに、逃げることもできないほど惹かれてしまう。
「ち、ち、うえ………これは、一体何を………」
父は表情一つ変えず、務めだ、と言い切った。
「務め……これが「お務め」なのですか…?」
幼いころから、“お務め”が我が家にあることは知っていた。キルセルクの一族は、一日に数回の“お務め”をこなす義務がある。
内容を初めて知って、愕然とした。
こんな、務めを。
「そうだ。我が一族の最大の務めは、濃い血族を残すことにある」
見ていろ、と淡々と言われ、父が身を乗り出して女の乳房を掴んで腰を動かす様をただ見続けた。ごくり、と怪しく喉が鳴った。
あぁ、あぁ、と顔を振り、髪を振り乱しながら喘ぐ女性。それを見つめていると、ジルアートは身体の変調を感じ取った。下半身が熱いのだ。
やがて行為は激しさを増し、ある時糸が切れたようにそれは終わった。
息も整わぬ内から、父は冷めた目でジルアートを見た。
「ジルアート」
「はい」
「これによって子が為せる。私たちキルセルクの一族に求められているのは濃厚な血族を生み出し、後世へ繋ぐことだ」
「………はい」
これが、務め。
ぐわんぐわんと頭痛や眩暈が生じているようだった。
それでもキルセルク家の跡取りとして、ここで醜態を晒すわけにはいかない、とジルアートは懸命に踏ん張った。
「お前にもこの務めに参加してもらうことになるだろう。精通を終えたなら、務めを全うできるはずだ。今日より成人としてお前を扱う。良いな」
「………は、」
はい、と答えようとして、語尾が震えた。
血が沸騰するかのような興奮と、恐怖の震えが同時に押し寄せてきていたのだ。
金槌で殴られたような衝撃が走った。
寝台の上でしどけなく裸体を晒し、息をつく女性は誰だ。
「あ、………チェ」
掠れて声が出なかった。
アジェリーチェは、汗を浮かべた顔をちらりとこちらに向けて、微笑んだ。
“血の濃い血族”―――それはつまり、近親の。
彼女はいつも、「お務め」をこなしていた。
それは、つまり。
父は自らの性器を無感情に取り出し、素早く清めた。
ここに乗れ、と代わりに寝台へ上がるよう促され、戸惑いながらもジルアートは足を乗せた。
目の前には、未だ激しく息をつく女が足を開いている。
女。アジェリーチェという名の、女だった。
開かれた股の間に視線が吸い寄せられる。アジェリーチェは甘く笑って、そこを開いて見せる。
生まれて初めて見た女の中心。そこからは白い液体が溢れて零れていた。
ジルアートは息を呑んだ。今朝、これと同じものを彼は目にしたからだ。生まれて初めての精通、という形で。
下半身がかっと燃えるような熱を持った。
「精を注いでみろ、ジルアート。今日はそのためにお前を呼んだ」
女は起き上がって、にこりと笑む。父の思惑を理解しているかのように、ジルアートの下半身の衣服を取り去っていく。
父は身支度を整え椅子に腰かけると、無関心そうな冷たい視線でこちらを眺めていた。
「だいじょうぶよ。わたしが、教えてあげるわ」
赤い唇が近づくのを、ジルアートは拒むことができなかった。
汗の匂い。おかしな熱気。
口づけと共に性器を弄られ、ジルアートは生まれて初めてその行為を覚えたのだった。