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震える剣  作者: 結紗
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空と、虹の狭間

…夢を、見ていた。


いつまでも続く、長い、長い道。

真っ白な世界は、ゆらり、ゆうらりと揺れながら、漂うだけ。

そんな世界を渡るかのように私はただ、そこを漂っていた。


休日の電車は、混雑の時間が日中に集中する。暖かくなり始めた最近は、子供をつれた家族やお年寄りも多く電車に乗ってくる。

私は、そんな雑音が嫌いだった。



―― ああ 、 電車の音がする。



平日の朝晩のラッシュは、まるで機械仕掛けのロボットたちがそこに在るような印象を受ける。みんなが無表情に、同じ行動を繰り返す。

電車の扉の前に整然と並ぶ人を見て。定刻通りの電車も、無機質なメタリックカラー。

ああ。と、私は陰鬱な気分に陥りながらも、それにひどく安堵する。

この世界は、無干渉に満ち溢れている。


…だから、人の温かみを取り戻したかのような賑わいの雑音が嫌いだった。

だけど、かくいう私も今日は休日として、電車に乗り込んだのだから人のことは言えないんだけれど。

春の金色の木漏れ日は、心なしか強く、私の網膜を刺激する。

眠りたくて目を瞑っているのに、光が私の視界に溢れている。



――遠く で  風の音がする。



だけど今の私は穏やかだった。あの雑音が遠くに聞こえる分には安堵の材料になることを知っているから。

電車に乗ったときは雑音といろんな匂いが立ち込めていた車両だったから顔を顰めてしまったけれど、今はそれがすごく遠い。

さっきの駅で電車の後ろに増結列車があったからだ。

人気の少ない駅のホームを突き進んで、最後尾の新しい車両に乗った。

向かいの5人用の椅子も、その向こうも、見渡す限り誰もいなくて少しだけさびしい気持ちにもなったけど、それはまあ、仕方がない。

その代わりといってはなんだけれど、次の駅は大きい駅だ。

新幹線が止まるような駅だから、乗車の人も多い。

こんなガラガラなのは、そこに着くまでの数分だけ。

目的地まではこの電車だけで行けるけれど、都心まで直結しているこの電車はすぐにも満員電車となってしまうだろう。

休日の満員電車なんて、うるさいことこの上ない。

…ああ、いやだ。早く眠ってしまいたい。

都心に着きさえすれば、あとはもう、どんなに人が多くても私は無関心でいられる。干渉もされずに済む。

それが一番、何より心地いい感触だから。


なのに眠気は、夢と現を行ったり来たり。

微かに聞こえる車輪の音。線路の音。

それだけが、私の意識の中にあった。

まばゆいくらいの、白い光の中で。





――ピアノの、音。




遠くで鳴っている、響く美しいピアノの音。

にじむような深い響きに、私は意識をようやく閉ざした。

始まりましたっ。


ちまちま一日一更新、目指して頑張ります。


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