43.パリッシュ男爵邸にて
レヴィンハルトは、ジェニーの実家であるパリッシュ男爵邸を訪れた。
玄関で彼を出迎えたのは、ジェニーの親であるパリッシュ男爵当主と男爵夫人だった。
「よ、ようこそおいで下さいました、ローラン侯爵閣下。応接間に御案内致します。こちらへ――」
「時間が無いので挨拶は省略させて貰う。場所もここでいい。用があるのは貴方方ではなく、娘のジェニー・パリッシュの方だ。その娘が魔力を持っている可能性がある。この国では、魔術士や呪術士になり得そうな者は、一通り素性を調べるという規定があるのは知っているだろう。娘は今この屋敷に居るか?」
「はっ?」
レヴィンハルトの言葉に、パリッシュ男爵と男爵夫人は大きく目を瞠り、互いの顔を見合わせた。
「そ……そんな筈はありません! 娘は生まれた時、魔力を一切持っていなかったのです。そんな娘に魔力など――」
「魔力を測ったのは、娘が産まれた時にしかしていないだろう?」
「え……? は、はい……」
パリッシュ男爵は、レヴィンハルトの質問の意図が分からず、怪訝に眉を寄せる。
「『先祖返り』という言葉があってな。先祖に魔術士や呪術士がいた場合、何かがきっかけで突然魔力が開化される事があるんだ。貴方達の先祖で、魔術士や呪術士はいたか?」
「…………」
レヴィンハルトは、二人の顔色が瞬時に青くなり、目を伏せたのを見逃さなかった。
「……いえ、そのような者は……おりません」
「そうか、分かった。今、娘には会えるか?」
「い、いえ、娘は隣国で問題を起こしてしまい、自室で謹慎中なんです。ですのでお会いするのは御遠慮願いたく――」
「……そうか、それなら仕方ない。では失礼させて頂く」
レヴィンハルトはそう言うと颯爽と踵を返し、パリッシュ男爵邸を後にした。
そして、“瞬間移動の術”を使って城門前に降り城の中に入ると、家令から【特別書庫】の鍵を借り、一直線にそこへ向かう。
その【特別書庫】は、国外秘書物や極秘書物が置いてある、国王陛下が許可した階級の高い者しか利用出来ない場所だ。
【特別書庫】に入ったレヴィンハルトは、立ち並ぶ本棚の中から貴族関連の棚を探し、そこから『貴族図鑑』を手に出ると、パリッシュ男爵の家系を調べ始めた。
「……やはり」
レヴィンハルトが眉間に皺を寄せ、小さく呟く。
パリッシュ男爵家の先祖に、呪術士がいた。
しかも『極悪の魔女』と呼ばれる、悪名高い高位の呪術士だったらしい。
彼女は禁じられた呪術を貴族に使い、処刑されていた。
「くそっ……! もっと早くこれに気付いていれば――」
レヴィンハルトに、後悔と自責の念が一気に湧き上がる。
先祖に呪術士がいたのなら、その子孫に“素質”を持つ者が産まれる可能性もあったのだ。
パリッシュ男爵家の先祖に呪術士がいたという噂は一切聞かなかった。
『極悪の魔女』と呼ばれた悪評高い呪術士が先祖にいるパリッシュ男爵家――
そんな事実が周りに知られたら、男爵家の尊厳は丸潰れだ。
そういう噂が少しでも出ないよう、彼らは周囲での火消しを怠らなかったのだろう。
「……『極悪の魔女』、か。まさにその通りだな」
レヴィンハルトは、忌々しそうにボソリと呟く。
そこには魔女が住んでいた場所も記載されていたので、レヴィンハルトは手掛かりを求め、その住所に行ってみる事にしたのだった。




