36.“運命の人” ※セルジュside
セルジュ・ロノ・ウォードリッドは、輝く黄金色の髪と神秘的な青緑色の瞳を持つ、父であるファウダー・イグス・ウォードリッドによく似た美少年だ。
彼は昔から利発で、両親の言う事を何でも聞く、全く手の掛からない子供だった。
父ファウダーと母セライナは、自分のやりたい事や気持ちを口にしない大人びた彼に、無理をしているんじゃないかと心配の念を抱いていた。
それを本人に訊いても、「そんなことはないよ」と笑って言うだけだった。
しかし、隣国のオルドリッジ王国の視察からファウダーとセルジュが帰ってきた時、セルジュは初めて両親に我が儘を言った。
「父上、母上。ぼくに大切で大好きな子ができました。だから、ぼくはその子と結婚します! その子じゃなきゃ絶対に結婚しません!」
セルジュの宣言に、ファウダーとセライナは同時に顔を見合わせる。
「……セルジュ。それは、オルドリッジ王国でか?」
「はい、ぼくの“運命の人”です! あの子はぼくに会いに来てくれると約束してくれました。あの子が来なかったらぼくが迎えに行きます!」
「そ、そうか……。良かったな、運命の子がお前の前に現れて……」
「はい!」
瞳をキラキラと輝かせ、大きく頷くセルジュに、二人は息子が初めて自分の思いを主張した事に……年相応の彼を見られた事に喜びを感じたのだった。
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そして時は流れ、セルジュは十四歳になった。
あの頃に比べて精悍さと端麗さが増した彼は、父に益々似て更に美しい少年になっていた。
産まれた時から陽の光を受けると七色に光る瞳も持ち合わせており、『言い伝え』の効果も相俟って、彼と同じ年頃の娘を持つ貴族から山程の縁談が届いた。
しかし、それをセルジュは全て一蹴した。
「ぼくのお嫁さんは“あの子”に決めているから。ぼくはあの子をずっと待ってるんだ」
と、断言して。
ファウダーとセライナは、そんな息子に縁談の無理強いはせず、黙って見守った。
例え、セルジュの決めた娘が貴族ではなく平民だったとしても、彼ならその子を守り、周りからの中傷や誹謗を跳ね返し、その子を心身共に支えていけると思ったのだ。
彼女が会いに来てくれる事を疑わず、何年も一心に待ち続けるセルジュを見兼ねて、こちらから彼女を迎えに行こうかとファウダーとセライナが話していた矢先、突然セルジュが激しく咳込み、吐血をして倒れた。
つい先程までは健康そのものだったのに。
早急に城の専属医師に診て貰った所、心臓部分にあたる背中に、赤黒く不気味な筆跡の数字が小さく浮かび上がっている事を発見した。
これは呪術――【呪い】ではないかと判断した医師はファウダーにそう告げると、彼の顔色が瞬時に変わった。
急いでその症状の【呪い】を調べた結果、それは未だ解呪法の見つかっていない、“死の宣告”という最上級の呪術だと分かり、ファウダーとセライナは絶望に陥る事となる。
必死に解呪法をあちこち探し求めるが一向に見つからず、【呪い】をセルジュに掛けた呪術士も行方が知れず……。
セルジュの容態は、日に日に咳込み吐血する回数が増えていって。
二人の焦りも虚しく、何の解決方法も見つからないまま、ただ徒に日々は過ぎていった――




